MMW-005
──二日後、それが次の命がけの時間
『今できるのは、こういう鍛錬ぐらいだな』
(その通りっと……)
「セイヤ、利用時間はあと4時間ほどあります。次はどうしますか」
今俺たちがいるのは、居住区そばの訓練スペース。
と言っても、壁があるだけの荒れ地だ。
単に今後拡張予定の空き地ともいう。
「大体の試合時間が5分から10分だから、その間に好きなように動く特訓をするよ。お嬢様も目で追う訓練としてよく見ててるといいと思う」
「ええ、当然です」
肯定を聞きながら、メインレバーを押し込む。
外観や装備がどれだけボロだろうが、この操縦系だけはどの機体も丈夫だ。
当然のことだけど、操作中にボキっとなったら終わりだしね。
実際にこれの動きで操作するのではなく、レバーや操縦桿の操作はMMWに命令を伝達するための物。
理屈はわからないけど、登録した人の感情や意識が伝わるというあやふやな仕組みらしい。
『ご都合主義……いや、少し違うか。さて、今度の相手は前とは別物だ。確か実体弾の短銃を左右に持った手堅い相手だ』
「対する俺は、基本装備のウォーピックに、褒賞のミサイル、エネルギー銃。盾がない以上、かき回すしかないよね。っていうか、最初はハンドガンすらないとかどうなのさ?」
愚痴りながら、機体を走らせる。
見えないけど見える相手に踏み込み、距離を取り、また踏み込む。
本当は、こうして特訓するのも良し悪しである。
どこで見られてるかわからないというか、確実に誰かは見ている。
それでも、ぶっつけ本番だけで強くなれるほどMMW戦は簡単じゃあない。
俺は、なぜかできるイメージ相手に模擬戦を繰り返す。
『だいぶ前の記憶だからな、あいまいなのは許してくれ』
(上等だよ。十分、厄介だ!)
想定以上に、左右の銃というのは隙が少ない。
これが一丁であれば、左右に揺らすのも有効そうなのだけども。
適当に動くと、今のブースター性能じゃすぐに捕まる。
付け入るスキがあるとしたら、威力。
「お嬢様、このクラスの通常弾薬、500発でいくら?」
「えっと、これね。100ジュエル!? 1試合でかなり撃つこともあるでしょうに……」
動揺のせいか、口調が年相応のものになるお嬢様。
すましていたり、きりっとしてる時とは違う不思議な声。
と、それは後にしよう。
今は、その値段が重要だ。
『修理やら補給やら、そこそこ消耗したという前提だと、賞金の大部分はそういう維持費に消えるな』
「どうしてこんな値段なのに、威力が低い……ああ、そういう」
わかってしまった。
胸糞悪いが、わかってしまったのだ。
要は、前のような戦い方は何度もできない。
正しくは、何度もやると飽きられる、のだ。
普通に威力のある弾で、普通に撃ちあえば大体すぐに機体が致命傷を負う。
そうなると、試合が終わってしまうわけだ。
「セイヤ、私にもわかりました。エンターテイメント性……娯楽なのですね」
「ようやくわかってきたじゃん。そういうことだね。俺たちがひぃひぃ言うのがいいのさ」
道理で、イメージで被弾した時に思ったより動けるわけだ。
勝利しても、修理が大変そうな泥仕合が多いのはこのせいだったのだ。
『そりゃあ、そうさ。だって、修理をあまりせず稼ぎ続けると、どんどん格差が広がるからな』
「底辺はいつまでも底辺で、増えては減って、増えては減って。取り換えの利く娯楽道具……ちっ」
口にして、その不快感は倍増した。
面白い、やってやろうじゃないか、と心が燃える。
どんどん勝利して、どんどん強くなってやる。
そうしたら、俺もお嬢様も……ま、そこまではまだ気が早い。
今は次の対戦相手のことだ。
「何か盾になるもの……あっ、これだ」
安く買える消耗品だとかを見ていて、気が付く。
ないなら、代替品を用意したらいい。
どうせ、戦いは短時間なのだ。
『ありだと思う。適当に溶接して持ち手でも付けてもらうぐらいは許容範囲内の出費だろ』
頭の中の俺も同意した作戦。
それは、廃材を適当に背面に備え付けるというものだ。
ただし、すぐに取り外せるようにして、持ち手も付ける。
通常弾の威力が低いことを逆手にとって、突撃だ。
「お嬢様、この辺を適当にコンテナ数個分購入手続きよろしく」
「これは……頭いいですね、セイヤ。やりましょう!」
意図は伝わり、すぐに通信は切れる。
買い物の間、俺は操作の訓練を続けるのだった。