MMW-055
MMWの動力源であるメタルムコア。
それを2基積んだ現在の愛機、プレストーンはというと……。
「本当にっ……こんな動き出来るのっ!?」
「データ上、間違いはない。このぐらいはできてしまうだろうな」
体にかかる重さすら再現する筐体の中で、うめく俺。
外からのアデルの声が、どこか楽しそうに感じた。
いや、実際楽しんでいるのだろう。
新しいMMWが示す可能性に。
「こいつは、背面武装無しがちょうどいいぜ。手持ち以外じゃ、狙いをつけてる余裕がねえ」
「俺もそう思う……よっ!」
増設しまくったブースターを吹かしながら、それでもまだ動力には余裕があるのを感じる。
そりゃ、一通りを賄うメタルムコアを、ブースターだけに使うのだから当然だ。
周辺のウニバース粒子を吸い込み、コアで力に変換し、不可視の力として吐き出す。
それがMMWのブースターの仕組み。
普段なら、乗り物の動力に使われるはずのそれが、今は暴力の源と化している。
「ターゲット全部終了! はーーーっ……」
手もだけど、頭が忙しい。
互いの位置がすぐ変わり、そのたびに狙いをつけ、あるいは回避する。
試合の後は、ぼんやりしてしまいそうな気がしてくる。
「予想以上だ。これならランク5や6が相手でも翻弄できるだろう」
「そいつはすげえ。俺も物にしないといけねえな」
次は自分の番とばかりに、筐体に乗り込むリングを見る。
彼の機体は、順当な強化といっていいと思う。
『目立ったものはなく、すべてを単純強化。腕の中に炸薬を仕込んで、取り外し時にグレネードとして使えるのが特徴って感じだな』
(ええ、アレってそのためだったの……)
リングにはリングの戦い方があるのだろうし、俺から見ても妙に手馴れている。
始める前にエルデと話していた内容が関係してるんだろうけど、今はいいや。
筐体の外から、その戦いぶりを見ていても、驚きと納得がある。
「なんだかんだと腕は鈍っていないようだ……戦士セイヤ、彼らのことでも礼を言わせてほしい」
「俺は何も聞いてないし、特に知る必要も今はないよ。リングはいい相棒で、エルデはお嬢様に必要な年上、それだけだよ」
本当は、そりゃあ気になる。
今はいいやと、気分を切り替えてはいるけれども。
彼らが、本当にそうならばなぜ借金持ちでぎりぎりの立場にいたのか、はまた今度聞くとしよう、
(お嬢様の親に関してももっと聞いておきたいし)
『ま、それがいいだろうな。2人が来たぞ。他にも人がいるが』
プレストンに言われ、振り返れば確かにお嬢様たち。
何かカートと一緒に、使用人ってやつ?な人と一緒だ。
近くまで来て、運んでいる物がわかる。
「もう何時間もやってますよ、セイヤ」
「リングが終わったら、食事にしましょう」
そういうことらしい。
確かに、夢中になっていたけど結構な時間が過ぎている。
それだけの手ごたえと、経験は得られたと思うし、何よりなんとかなりそうという実感が味わえた。
しばらくして、準備をしている間にリングの試しも終わったのか、筐体から出てくる。
「お? そうか、そんな時間か。ありがたい」
リングの声を合図に、広い空間で小さな食事会が始まる。
材料はアデルが提供してくれたのか、俺たちが買うようなレベルのものではないように思う。
マズイことはなく、おいしいけれど……。
「これはやばいね、リング」
「その感覚は大事にしておけ」
「え? 私、失敗しました?」
心配そうなお嬢様に首を振り、見る先はアデル。
この男のことだ、わかっていてこうしているに違いない。
「こんなの知ったら、質素な食事に戻りにくいってだけだよ」
「何、この後も勝っていけばいい。自然と、生活のレベルもあがるだろう」
しれっと言い放つアデルは、本気だ。
俺と、リングが勝ち上がれると信じているのだ。
それが強者の驕りだとかは思わない。
なぜかと言えば、アデルたちトップランカーが基本、一人で戦うのを知っているからだ。
「価値観が共有できる相手というのは、貴重だ。そのままランクを上げることができれば、セイヤ、リング、2人は最強格となれるだろう」
口調はそのままだが、表情は少し暗い。
戦い続け、どこかで相棒を失ったであろうアデル。
単純に利害が合わず、別れたのかもしれないが。
ともあれ、ランクが上がるほど、トップランカーほど一人の傾向がある。
きっと、稼ぎだとかいろんなことでもめるのだろう。
「めんどくせえ話は後だ後。食ったらよ、3人の動きを確認……何の音だ?」
「私のメッセージだな。誘った相手が返事をくれたのだろう。さて……そうか、うむ」
一人、端末を見て頷くアデル。
さきほど浮かべていた暗めの表情は消え去り、戦士のものになっていた。
「参戦の返事と、そのほかに対戦日時の決定の連絡だ。さあ、忙しくなるぞ」
その声に、俺たちはしっかりと頷くのだった。




