MMW-050
「いっそのこと、100連戦とか言ったほうがよかったかな?」
「さすがにやめとけ。どこかで死ぬ」
冗談たっぷりの発言に、真顔のリングによるつっこみ。
俺が本気じゃないことはわかってるだろうけど、今のは俺が悪かったかな。
命がけなのは、いつだって変わらないのだから。
「そうだね。浮かれそうになってた。ずっと勝ってるから、ね」
「ここに2人がいなくてよかったな。休息をしっかりとるように言われるところだった」
なおも真剣な表情のリングが俺を見る。
彼の心配も、よくわかる。
教育を受けているときにも、似たようなことはあった。
自分はできると調子にのった奴が、事故を起こすなんてのは日常だ。
そのうちの1回が、俺が感電と火傷を負う事件を起こした誰かなわけだけども。
「うん。本当に、そうだ。リングとエルデがいてよかった。俺とお嬢様だけだったらどこかでこけてた」
「ま、俺のほうは失敗ばっかりしてるからな。このぐらいはしないとな。さて、100連は冗談として、10連は確実だな」
気持ちを試合に切り替えるべく、タブレットを操作。
ここで計画通り、直近の試合とその組み合わせを調べていく。
運よく、多くのランカーが近いタイミングで試合を行っているようだった。
「思ったよりうまくいきそうだね?」
「だな。おそらく、俺たちも無関係じゃない。盛り上がる試合を求めた上が、ランカーをつついたんだろう」
「そんなもん? そっか……じゃあ、やるなら今、かな」
試合が盛り上がれば、賭けも盛り上がる。
活気が出てくれば出てくるほど、コロニー全体の動きもよくなり、上は喜ばしいわけだ。
試合のマッチングも、見えないところで気を使って……までは都合がよすぎるか。
「間違いない。早速申し込みだ。装備は一通り、買いそろえたからな」
「最初のうちは、すぐ終わらせるよ。狙撃メインで動くね」
「よし、俺は盾とけん制だな」
申し込みをしてすぐ、反応が返ってきた。
その内容に、思わずリングと顔を見合わせる。
なにせ、1時間後に可能ならといきなりだ。
「……ランカーに当たるかもしれん。覚悟だけはしておこう」
「了解。でもまあ、やれることをやるだけだよ。ひとまず、2人に連絡しないと」
俺はソフィアお嬢様に、リングはエルデに連絡を取る。
すぐに機体を移動させ、試合の準備をしなくてはいけないからだ。
こういうとき、つなげて力を通せばそのまま使えるMMWの性質がありがたい。
昔あったという機械と比べて、換装が容易だからだ。
あわただしく、試合までの時間はあっという間にすぎ……本番。
「早い理由がわかったぞ。予定者が体調不良で運び込まれたそうだ。要は穴埋め要因だな」
「いいんじゃない、お金はもらえるなら」
違いない、と笑うリングと共に、試合会場へ。
相手のペアは、ごく平均的な勝っては負けての中堅どころ。
目立つ要素もなく、かといってすぐには死んでいない、いかにもらしいという相手だ。
こちらの機体を覚えてる人がいるのか、試合会場に出ると観客席から歓声が。
すでにこの雰囲気なら、取れる手が増える。
「リング、余裕宣言したら盛り上がるかな?」
「そのぐらいならたまに見るぞ。やってやれ」
相方の許可を得て、俺は機体の無線を観客席につなげる。
そして、言い放つ。
「1分もいらない。賭けるなら今のうち」
短くそれだけを言い、無線を切る。
すぐに意味合いは伝わり、動きがあるのが俺からも見える。
『目立つと思うが、いいんだな』
(今更だよ。それに、このほうが相手が怒るから)
見守ってくれていると感じるプレストンの声に、そう答えて試合相手を見る。
言葉は交わさなくても、感情はなんとなくわかる。
試合開始まであと少し。
ルールを破ってでもこっちに発砲したそうな雰囲気がばっちりだ。
「俺が防ぐ。しっかりやれよ」
「もちろん」
そして、試合開始。
合図のブザーをかき消すかのように、相手からの攻撃が始まるのがわかった。
視界に踊るウニバース粒子の光たち。
「させねえっ!」
その多くの攻撃をリングが防ぐと信頼し、自分の役割をこなす。
このランクで手に入る、ほぼトップクラスな高級品のセンサー、照準装置、そして狙撃用ライフル。
肩装備に2門、両手持ちで1丁。
やることは単純で、防御を固めたリングが俺の前で攻撃を防ぎ、その後俺が撃つ。
すぐに俺の射線からどくように移動したときが合図だ。
「セイヤ!」
「行けるっ!」
俺の攻撃方法はたった3つ。
それぞれが2発ずつ、一斉に発射。
弾数なんかを犠牲に、弾速と貫通力を高めた攻撃。
狙い通りに、相手の腰から足にかけてを貫く。
「何が起きたかわかんないだろうね? でも、もうまともに動けない」
「本当に当てちまいやがった……」
そんな会話をする余裕すら生まれてしまう。
俺とリングが見つめる先で、姿勢を崩し倒れる2機のMMW。
狙い通り、機体を支える腰回りから足の関節部位を破壊、行動不能にしたのだ。
武器自体は使えるだろうけど、動けないMMWなんてのはただの的。
そうなればどんな行動をとるかは、言うまでもない。
「降参の合図だ。勝ちだよ、勝ち」
「まずは一勝。なんとかなったね」
勝利が確定したことで、声が明るいものになるのを感じる。
どのぐらいの稼ぎになるかは何とも言えないけど、悪くはないと思う。
『宣言通りに試合を終わらせるなんてのは、ロマンの究極だからな』
(それでも同じことを何回も、は飽きるだろうなってのはわかるよ、うん)
しばらくの静寂の後、一気に爆発する観客席の騒ぎを聞きながら、試合会場を後にする。




