MMW-049
「俺たちには、金が必要だ」
「リング、そんな正直に言わなくても……必要なのは確かなんだけど」
その日は、朝からリングはこんな調子だった。
エルデもまた、強く否定はしていないあたり、本当にお金が必要らしい。
とはいえ、借金は順調に返せているはず。
むしろ、貯金もできたはずなのだが?
「お二人にはまだ借金があるということでしょうか?」
「結構稼いでるよね?」
お嬢様と俺、2人の疑問にリングたちも押し黙る。
(なんか理由があるのかな? 病気があるとか?)
ずっととは言わないだろうけど、しばらくは組む相手なのだ。
可能な限り、事情は話してほしいところである。
『エルデのお腹をこっそり見てみろ』
(お腹?……前より膨らんでる?)
「ちょっと太った?」
「セイヤ、そういうことは口にしないのがって……もしかして?」
お嬢様には、心当たりがあるらしい。
エルデもまた、頷きで答える。
「そういうこった。セイヤはわかんないって顔してるな。あー……子供が、できたんだよ」
「子供……ごめん、俺はそうやって生まれてないからわかんないや」
言いながら、微笑むエルデと、そんな彼女を守るように抱きしめるリングを見る。
2人とも、幸せそうな表情をしている。
横を向けば、お嬢様も似たような顔だ。
(子供、子供か……どういう感じ?)
『男女ですることの知識はあっても、その先がないか。伝えるぞ』
いつかの俺は、ちゃんと知ることができたらしい。
頭に、水がしみるように知識が伝わってくる。
これは、なるほど。
道理で時々、外で待たされたりしたわけだ。
「この前、訪ねたときに焦った風だったのはこういうことだったんだ。ごめんね」
「そう気を使われると、こっちが申し訳なくなるな。ともあれ、そんなわけで稼いでおきたい。いざというときに備えて」
「リング、無茶はしないでちょうだいよ?」
お互いを大事に思っているのが、見ているだけで伝わってくる。
リングは、戦士がいつ死ぬかわからないということを考えているわけだ。
俺としても、確かにそれは否定できないことなのでうなずくしかない。
心配するエルデの気持ちは、俺じゃなくお嬢様がわかってくれるだろう、たぶん。
「ではどうしましょうね。マッチングはある程度ランダムですし、かといって勝てる相手だけ指名してくるとは限りません」
「だね。ランクを上げちゃうのが一番早いと思うけど……条件はどんな感じだっけ?」
「ランク3から6ぐらいは、結構動くらしいぜ。勝ってると気が付いたら上がって、負けてると落ちてる、そんな感じだ」
1から2と違い、かなりあいまいらしい。
そうなると……うん。
この方法で、行くのがよさそうだ。
問題は、リングがついてこれるかだ。
「確認だけど、大体は週に1回戦えばいいほうなんだよね?」
「ああ。戦いは疲労もたまるし、怪我だってする。何より機体が万全でないこともよくある話だ。連戦できるやつは少ない。って……セイヤ、お前」
さすがに俺のことをよく見ている。
事前に組む相手として調べたんだろうな。
だったら、俺がランク1でどんな試合数だったかもわかるはず。
「うん。短期間にどんどん試合を組もう。本気でやる相手はあんまりいない感じだからね。やれるとこまでやってみない?」
「また変な名前が付きそうですね……わかりました。私も精一杯サポートしますよ」
お嬢様は賛成してくれた。
あとは、当事者である2人の決断だ。
「リング……」
「そんな顔すんなよ、エルデ。セイヤと組んでから、負ける気がしねえ。油断はよくないが、いけるときはいくのも大事だと思う」
こちらを見るエルデには、しっかりと頷き返す。
俺だって、別に死ににいくわけじゃない。
十分勝算はあるのだ。
少しばかり、貯金と予算には無理を強いることになるけれど。
「決まりだね。じゃ、装備を揃えよう。相手にパターンを読ませない、組み合わせを増やすんだ」
その時の俺は、たぶん悪い顔をしてたんだろうなと思う。
こちらを見る3人の表情から、そう感じたのである。




