MMW-004
来週からは週2ぐらいの更新予定です。
「お嬢様は、整備を見学したことはあるの?」
「何回かは。でも、危ないからと近くでは見たことはないですね。こんな構造なのも初めて知りました」
機械による自動的な補給の間は、暇といえば暇。
磨くぐらいはしようと、ボロ布を手に拭き拭きと。
ついでに聞いてみたところ、予想通りの答えが返ってきた。
「その辺はこれから学べばいいと思うよ。俺も……必死になって覚えただけだから」
(実際には、知らない、教わった覚えのない知識が多いんだけど)
『ま、そりゃそうだ。一つになってる、いや……俺がくっついてるって言った方がいいか。頭が2つあるようなもんだ』
頭の中に響く、もう1人の俺の声。
未来の自分なのか、まったく違う世界の自分なのか、はたまた、俺の妄想の産物か。
こんな思考も、俺が増えるまでできなかったはず、だ。
ただの戦士、その1人でしかなかったのだ。
「そうですね、その通りです。ぜひ教えてください、セイヤ」
「じゃあまずは戦士への態度から。俺のほうは飼い主がいいっていえば問題ないけど、飼い主からの態度はもっと立場を考えたものにしないと、お嬢様が舐められるよ? せめて、説明しなさい、ぐらいは言えないと」
「うっ……なるほど。コホン、MMWについて説明しなさい、セイヤ」
少し顔を赤くし、言い直すお嬢様。
さすがというべきか、その時の態度はしっかりしたものだった。
どこか見覚えのある態度で、ちょっとだけ心が重くなったりもした。
「では。MMWとは何か? 汎用機械兵器、マテリアルマニファクチャーウェポンの略称です。それはかつて、星を渡る技術が当たり前にあった時代、空気の無い場所での作業を目的とした作業機械が始まりだそうです」
少し、意識して言葉をそれっぽくして語りだす。
教わったこと、頭になぜか刻まれた記憶、両方を思い出しながら。
「メイン動力は各地で産出される特殊な鉱石を触媒とし、空気中に存在するウニバース粒子を収集、圧縮して専用のコア。メタルムコアと呼ばれるものの内部で解放、それによりエネルギーを抽出、利用しています。後は全身の配管を専用オイルで満たし、駆動させます。オイルにどれだけこのエネルギーを浸透させられるかがMMWの性能を左右するとかどうとか」
「エネルギー……確か、マナともブラックマターともいわれてますよね」
『謎すぎて解明できてないけど、使えるから使う。人間の業ってやつだよな』
お嬢様と頭の声に頷き、磨いているMMWの装甲を軽くたたく。
軽い感触だが、強度は素材の鉄ではありえないものになっているはず。
「らしいですね。名前がわかっても何か変わるわけじゃないので……。ともあれ、最悪コア部分をドラム缶みたいなのに詰めて、適当な鉄パイプを溶接、配管さえ通してしまえばなぜか動きます。水の通るホースみたいに感じますね」
と、そこでお嬢様がリッポフからもらったタブレットを操作し始め、途中で動きを止める。
画面を見るように促され、自分も覗き込み、納得する。
そこには、いくつものMMWが写っていた。
乗り換え用ということだろうか。
目の前の機体より足が細いもの、太いもの。
そもそもタンク状のもの、四つ足のもの、様々だ。
頭部や背面の造りも、全部違う。
面白いのは、部位ごとに完全に独立しているということだ。
「これだけの部位がそのまま販売対象ということは、全部互換性があるのですか?」
「おそらく。全部試したってやつはいないと思いますけどね」
『戦う相手に応じて、交換するっていうのも可能であればやってみたいところだ』
そのためには、かなり稼がないといけないだろうね。
十分な戦力を確保するだけでも、高望みかなと思うぐらいなのだから。
「試しながらやっていくしかないわけですね。例えばそう、こっちの機体を修理用に使うとか」
「そういうことですねっと、この口調疲れるな……ひとまず目標は射撃武器と、盾かなー」
肩が凝りそうで、辛い。
いかにもなしゃべりはやめて、今後の展望を話す。
何よりも火力、そして防御が必要だ。
防御のほうは、受け流すということになりそうだけれども。
「プレゼントされるというパーツ次第ですね」
「そうだね。でも、なんとなく予想つくよ」
そんな俺の言葉に、不思議そうにするお嬢様にはあいまいに微笑むだけ。
思わず口にしたけれど、要は頭の中に刻まれる知識のことでしかない。
『だな。おそらく2つ、1つは背面武装のミサイル。弾は普通だが、補給代金がかかるんだよな。もう1つは、射程は短いがエネルギー銃だ。今ぐらいなら射程内で当てれば十分だと思う』
(となると、盾かなー)
「セイヤが言うのなら。私よりも詳しいでしょうし」
「また態度が戻ってる。最後に決断するのはお嬢様だからね。しっかり勉強して、しっかり決めてね」
結局、俺とお嬢様は縛られているのだ。
逃げられない運命のような、何かに。
俺は戦い抜くしか生き残る術がない。
お嬢様もまた、俺が無様に負ければ借金を背負うことになり、貴族としては終わりだ。
「今日はこの辺で休んで、明日に備えようか」
「ええ、そうしましょう」
補給も終わり、あとは武装が届いてからとなった。
自室に戻ってすぐ、俺はすぐに寝てしまうのだった。