MMW-048
これは夢……だと思う。
見たことがないのに、見覚えのある光景。
操作したことないのに、慣れ親しんだコックピット。
戦ったことがないのに、散々相手をしてきたように感じる……敵。
「しつ……こいっ!」
俺ではない俺の声が口から出る。
夢の中の俺は、妙に焦っているのを感じ取った。
地下世界を、無数の異形相手に俺は戦い続け、飲まれた。
暗転、またどこかで目覚める。
今度は、見たことのない建物……廃墟だが、が立ち並ぶ道に。
同じくなぜか慣れ親しんだ感覚でMMWに乗っていた。
今度は中に人がいるだろうとわかる相手、多くのMMW同士が争う中を駆け抜ける。
無数のミサイルやロケット、実体弾にエネルギー弾が飛び交う戦場。
「まだ間に合う、間に合うはずだっ!」
今度の俺も焦った様子で、どこかを目指し、戦場を進む。
見知らぬ、目立つ建物が目的地のようでそこに向かい突き進み……視界が何かの爆発に染まる。
「だめかっ」
悔いに満ちた叫びと共に、俺の意識も飛んでいく。
何がダメだったのか、何が足りなかったのか。
何が、何が……。
「……やっぱり、夢か」
今度は、現実の俺だった。
買ってきたばかりのハンモックとかいう寝具から、どうにか体を起こす。
全身、汗だくで、シャツがべったりと体に張り付いている。
(お嬢様が近くの部屋だったら、面倒だったかな)
きっと、うなされる俺を心配して突撃してきたことだろう。
それはそれとして、だ。
『すまん。俺の油断だ』
「別に……何回も死ぬんだね、俺は」
やや落ち込んだ気配のプレストン。
同じ俺だからこそ、本当に申し訳ないという気持ちがわかるし、仕方ないことなのもわかる。
俺が力をつけていくことで、いわゆる同調が進んだのだと思う。
このまま俺が成長していけば、きっと俺とプレストンは一緒になるのだろう。
それ自体は、悪いことではないと思えた。
『ああ。何度も繰り返して、徐々に良い手を選んで……でもまだ足りなかった。それもそろそろ終わり、そんな予感はある』
「俺が集大成ってわけ? よくわからないけど、後悔はしたくないからね。シャワー浴びてこよ……」
お嬢様を起こさないように、ゆっくりと静かに移動。
戻ってきて時間を見ると、起きるまでまだそこそこ時間がある。
寝室から出て、ガレージ部分に行けば眠らない外の灯りが照らしている空間が広がっている。
夜通しの騒ぎと、朝早くの騒ぎが一緒になった外の光景に、一人笑みを浮かべる。
『俺の記憶通りなら、この先のランクだと試合するのは半々、残りは意外と外で仕事をしているはずだ』
「そういうことか……まあ、死にたくないからって試合内容も薄くなりそうだしね」
ランクが上がれば稼ぎが増える。
そうなるとMMWも武装も性能が良くなり、互いにある意味死にやすくなる。
結果、戦闘不能とか死なない決着を産みやすいわけだ。
そんな戦いとなると、消化不良になりやすいのだろう。
アデルぐらいの実力になれば、それでもうまいこと運ぶのだろうけど……。
(いや、ぬるま湯にならないようにって言ってたもんな。案外、引き締めるために……)
そう考えたところで、今日のやることは決まった。
お嬢様を誘って、他の試合を見学に行こう。
自分以外の試合をしっかりと観察し、自分のものにするのだ。
戦い方、そして何よりも雰囲気を。
『連れていく場所はよく考えろよ。リングたちに相談してみろ。変な場所だと、試合観戦どころじゃないからな』
「そんなもんなの? 了解。そんな気はしてたけどね、うん」
外を歩く陽気な奴ら。
あるいは、人生がけっぷちという感じのやつら。
どちらにしても、お嬢様の教育には悪そうだ。
俺? 俺は……もうプレストンの記憶で散々教育されたからね。
『知識と経験は別物だがな。ま、機会はそのうちめぐってくるだろう』
元気が戻ってきたプレストンの声を聞きながら、MMWにもたれかかり、ぼんやり過ごすのだった。




