MMW-045
「コアの限界まではまだ大丈夫だけど、どっかで攻勢に出るよ」
「おう、了解だ」
俺の陰に隠れる形で、様子をうかがうことにしたリング。
射撃武器がないわけじゃないので、時々相手に打ち込んでいるのがわかる。
狙ったかどうかわからないけれど、その攻撃が相手の隙を生み出しているのが面白い。
「砲身が、別の意味で焼け付きそうなんだけど!?」
『赤字覚悟のように撃ち込んでくるなあ。ここまで思い切りが良いとは』
感心してるプレストンに内心文句を言いつつ、迎撃の手は止めない。
一歩ずつ前に進みつつ、相手の攻撃で当たりそうなものを対処。
地面に当たった弾丸が砂煙を上げ、逆に迎撃することで射線上は綺麗という謎空間。
こっちが全身エネルギータイプでなかったら、とっくに弾切れだろう。
(今更だけど、このエネルギー弾って、どういう仕組みなんだろうな?)
合間に、そんなことを考えながらさらに迎撃を続ける。
相手の武装も、カタログで見たことがある程度だから、限界が近いはず。
例えばそう、実体弾のほうなんかは、すぐにだ。
「っ! そこっ!」
どちらがウルフィンかはわからないまま、武器交換をしようとしたのか、射撃が止まった一機。
その隙を逃す必要はどこにもなく、弾幕をそちらに偏らせる。
切り裂くように飛ぶ無数の光。
もう一機がかばうような動きを見せたが、遅い。
全身に降り注ぐようにこちらの攻撃が当たり、姿勢を崩した。
中身は無事だと思うけれど、機体に限界が先に来たようだ。
「行けるよ!」
「了解!」
2対1。
そうなった瞬間、すぐにリングは飛び出した。
叫びに答え、俺も援護射撃をしつつ前進。
一気に不利になったもう一機だが、戦意は失っていないようで、後退しながらまだ攻撃してくる。
この動き、気迫のような感覚は、こっちがウルフィンだったようだ。
「いいぜ、俺ごといけっ!」
「変に動かないでよっ!」
そこからの俺の射撃は、見ている者にとっては、驚きだったと思う。
リングに当たらないようにとしていた射撃を、かするが甘いぐらいの近さに変えたのだ。
当然、リングのMMW表面は痛むが、動きに問題はない。
まっすぐ突進するリング。
ウルフィンは当然攻撃を集中するが、それを防ぐための防御寄りの装備。
「おらよっ!」
射撃中心だった構成では、リングの至近距離の攻撃は対処できない。
推定ウルフィンのMMWは、両足を太ももぐらいで切断され、戦闘不能に。
勢いのまま撃ちぬいてもよかったが、儲けにならないことをする必要もない。
『いいのか?』
(まあね。俺がここにいるのは彼のおかげでもあるから)
彼の教育の元、事故が起きたからこその現在。
偶然に偶然の結果のような気もするけれど、それはそれ。
俺の銃とリングの近接武器をつきつけられ、相手は降参した。
「どうにか装備の分は補填できそうだね」
「ああ。壊さずにストックできるのは、いいことだ。試合に幅が出る」
ウルフィン自身は金に困っていないのか、あっさりと回収が進む。
試合会場には俺とリングと、荒れた地面だけ。
歓声を浴びつつ、戻っていくのだった。
機体から降りた俺たちを待っていたのはお嬢様……ではなく、なんとリッポフだ。
「勝利、おめでとうございます。教官役に圧勝でしたな」
「うまく作戦がはまっただけだよ。ねえ、リング」
「ま、そうだな。セイヤの腕もかなり良かった。で、何の売込みだ?」
リングの声も少し硬い。
実際、リッポフがただのお祝いにわざわざ来るはずもない。
何か新商品をお勧めされるのか、それとも……。
「わかりますか。新商品予定の武装の、テスターになりませんか?というお誘いですね」
悪い顔、とはこういう顔のことを言うのだろうか。
こちらに要件を告げるリッポフは、笑顔だ。
思わず、リングと顔を見合わせる俺だった。




