MMW-044
試合開始の少し前。
リングと2人だけの待機室だ。
どこからか、歓声が聞こえるような、気のせいなような。
そう感じた理由は……。
「ねえ、会場が妙に盛り上がってなかった?」
「気のせいじゃねえな。見ろ、前とその前、どっちも2対1の試合が組まれてる。内容は結構違うがな」
タブレットを覗き込めば、そこには2試合の結果が。
1つは、上位ランカー1人と中堅2人の戦い、もう1つは……。
「上位1人に上位2人? こんな豪華な試合、やっていいの?」
「たまには、だろうな。格差があると、試合が一方的なことも多い……ま、盛り上がりのためだ」
そういうものなのだろうか?
確かに、毎回圧勝というのはつまらなくなるだろうなとは思うけど。
自分たちが戦い方を変える理由も、似たようなものか。
ともあれ、どちらの試合も普段なら見ない戦いだったってことだ。
「その意味じゃ、俺たちの試合、ウルフィンじゃないほうが謎だな。ランク2に上がりたてなのはわかるがランク1でもまともに試合の情報がねえ」
「試合をせずに? ええ……誰かのコネとか?」
「……あり得るな。どっかのボンボンか、ウルフィン自身の推薦か」
試合の相手、ウルフィンはコロニーから仕事を受けている教育担当だ。
俺みたいな例外を除き、有望な奴を引っ張り上げるぐらいできるのかもしれない。
その意味じゃ、あまり経験を積ませてないのも気になるけども。
俺自身がそうだけど、とにかく試合数というか、場をこなした数は重要だと思う。
いろんな状況を経験し、生き抜く術を身に着ける。
それが、とても重要だと学んでいる。
(それをしなくてもいい? それだけ強い……なら、最初からそうしたらいい。ということはだ)
『そうだ、思考を止めるな。可能性の枝葉を増やし、答えを探り出せ』
考えも誘導されていないかが、少し不安なところはあるけれど……プレストンの助言は有用だ。
俺のこの考えが、間違っていないことを示している。
「経験を積ませなくても勝てるような、そんな装備で固めている……」
「ちっ、悪いな、セイヤ。お前に負担をかけそうだ」
ここまで言うと、リングもその可能性に思い至ったようだ。
つまりは、ろくに動かなくても勝てる武装。
そこまで考えたところで、試合の合図だ。
「ピンチは今日に始まったことじゃないよ。ま、任せてよ」
「おう、隙は見逃さねえ」
リングと拳を合わせ、控室を出てMMWのもとへ。
すぐに乗り込み、試合会場へのリフトに乗せる。
そうして暗闇から明るい場所に出た俺たちが見たものは、全身射撃武装で固めたMMW2機だった。
「豪華すぎるっ! いくらかかってんだ!」
「あれじゃない、借金もしてるんじゃ……」
負けたときの返済がどうやっても無理だから、俺はやっていない。
そんな怖さのある仕組み、借金。
普通にしてても、負けて戦士が戦えなくなったら借金を背負って再スタート。
それがお嬢様たち、飼い主の人生らしいけれど……。
『考えるのはあとだ。武装を分析しろ』
(おおっと、その通りだね。ええっと……うん、見たことある)
さすがに借金をしたといっても、まだ常識的な金額らしい。
俺がカタログで見たことがある装備ばかりだ。
もう少しいうと、買うか悩んだぐらいの金額たちだ。
「リング、知ってるから行ける」
「ようし、任せたぜ、相棒!」
頷き、合図とともに機体を少し前に。
同時に、相手からの実体弾、エネルギー双方の攻撃がやってくる。
リングには回避に専念してもらい、俺は迎撃を中心に動くことにする。
「数が多いが、多いだけだっ」
観戦席にいるお嬢様とエルデに聞こえるように、気持ちを口にする。
強がりとも思えそうな言葉を、現実にすべく、視界に力をこめる。
見える光、伸びる光の線。
俺の視界では、相手の攻撃が少し間延びして見えた。
当たりそうな実体弾には連射タイプで迎撃を。
エネルギー弾には、両腕の単発タイプを1つずつ当てる。
時間にして10秒もない間に、連続して光と爆音が響き渡る。
「本当にやりやがった……」
「やってやれるもんだねえ……」
結果、無傷の俺たちと、荒れた試合会場。
そして、次にどう撃つか考えてるっぽい相手2機。
少し遅れて、観客席の歓声が機体にまで聞こえてきた。
「今度は、こっちの番だ!」
リングのことを考え、少しずつ距離を詰める動きをしながら反撃開始。
おそらくは弾幕を濃くするために、そばにたっていた2機へ同時に射撃だ。
ブースターを少々犠牲にした、確かな火力が火を噴いた。




