MMW-042
結論から言うと、役割を単純に変えることになった。
「俺が射撃、リングが前。そういうことだね」
「ああ。これまではずっとセイヤが前だった。それが変わるだけでも目新しい。そこに、お前さんの射撃能力が高いとなれば、さらにだ」
問題は、リングが前でどう戦うか。
これまで1人が多かったらしいから、被弾自体はビビることはないだろうけれど。
攻撃よりも、防御に力を入れることに。
肩武装や予備武装は控えめ、その代わり装甲多めで生存性を上げる。
「ひきつけるぐらいは、な。んで、その隙にセイヤがこれで撃ち貫く」
「実体弾のほうが音がよくない? あ、見た目の派手さがあるか」
「セイヤ、弾代もかかりませんからね」
「コストは大事よー、苦労したわ」
確かに、それは大きい。
俺が機体に乗せる武器は、まずは両肩にエネルギー武装。
ライフルタイプと、連射タイプだ。
それとは別に、中距離用のこちらもエネルギータイプ。
MMWの頭部ほどのエネルギー弾を撃ちだす、バズーカのようなもの。
近づかれたら、ウォーピック2本で済ませるということに。
その分、ブースターなどを削り、どちらかというと固定砲台に近い構成。
頭部にも、射撃補正用のものを積むぐらいのガッチガチだ。
「派手で弾代はかからない、目的には合致してるかな。ちょっと高かったけども」
実際、ここ最近の報酬をかなり使っての購入になった。
なぜか、リッポフ商会が割引をしてくれたから助かったけど。
『俺たちの見てないところで、お嬢様が口にしてるのさ。リッポフ商会のものは確かだ、ってな』
(あー、そんなこと言ってたよね。オイルの時もそうだった。なるほどなー)
知らないところで、したたかさを発揮してることに驚きつつ、うれしくなる。
一緒に戦っている、そんな気持ちになるからだ。
「あとは連携の訓練をってとこなんだがな。明日、試合が入った」
「早くない?っていうか、拒否権はないんだ。するつもりもないけどさ」
「彼のことを責めないであげてね。よくあるのよ、こういうの」
エルデにも頷きつつ、問題ないことをアピール。
ランク1じゃ、変な目で見られるぐらい戦ってたからね。
今更短期で何戦もすること自体はかまわない。
けど、ちょっと変な感じがする。
「リング、何かある感じ? ちょっと不安そうだけど」
「不安というか、名指しなんだ。バブルゴールドと戦いたいって。ったく、俺はおまけかよってんだ」
「リング、実際ここ最近はそうでしょう。私たちは負けが込んでましたからね」
怒った様子のリングを、エルデがなだめる姿は慣れたものだ。
やっぱりこう、この2人の関係は不思議だ。
これが夫婦ってやつなんだろうか?
『少し違うような気もするが、大筋は間違っちゃいないな。それより、お嬢様が不安そうだぞ』
言われ、振り向けば確かにそんな雰囲気をまとっている。
これまで、負けたことはない、それでも不安なのだ。
大丈夫、と口にするのは簡単。
けれど、それじゃああまり意味はなさそうだった。
「お嬢様、次にコアを買い替えたい。あのサファイアも使ってさ。見繕っておいてよ」
「え? あ、はい! そうですね、まだこれからです!」
戦士の訓練の時もそうだった。
人間、役割がないと不安ばかり増えていく。
何かしら、やることがあるようにしてやればいいのだ。
「そういや、いい石を預けてるとか言ってたな。じゃあ次の次は、それを狙うか。決まった種類のパーツが報酬となる限定戦、そんなのもあるのさ」
「パーツ報酬……へぇ!」
思い返せば、リッポフからも時々似たようなのをもらってたな。
記録的なものを達成したときにってやつだ。
そんな感じの、お金よりパーツという試合があるようだ。
『生き残ってランクを3だ4だと上げてれば、すぐさすぐ』
(生き残れるよう、頑張るしかないね)
わざとかわからない、プレストンの陽気な未来予想図に内心苦笑しつつ、試合の話に戻る。
名指しということは……相手もわかるということのはずだ。
「で、改めて次の相手は?」
「1人はセイヤみたいな上がりたて、もう1人はランク2の上位、ウルフィンだつってもわからんよな」
「ウルフィン? いや、もしかして……」
リングの手から、相手の情報が写っているタブレットを奪い、画面を見る。
聞き覚えのある名前、それは正解だった。
「こいつ、俺の教官だ。現役ってのは本当だったんだ……」
真面目な表情で、いかつい姿の男。
それは確かに、俺に教育を施した教官だった。




