MMW-041
報酬がお嬢様の口座に入ったのを確認し、ようやく一安心。
それは一緒にいるリングたちも同じようだった。
というのも、報酬確定まで結構時間がかかったのだ。
試合が終わり、ガレージまでMMWごと戻ってから休息や整備の手配までしてようやくだ。
金額的には、納得なんだよね。
入ってくる報酬も増えるけど、出ていくのも増える。
それがランク、MOHSの上昇だとよくわかる。
そして、その後だがちょっとした騒動もあった。
報酬確定が遅れた理由のいくらかはそのせいかもしれない。
「思ったより時間がかかったな。ったく、放棄したくせに、使用料を要求するなんざ……ま、行方知らずで飛んでないだけマシか?」
「そんなもん? でも、実際あれで楽に勝てたところはあるよね」
予定では、もっと泥臭い戦いになるはずだったのだ。
それが、あのグレネードであっさりとこちらに傾いたわけで。
とはいえ、回収を一度諦めたのに、俺たちがそれを利用したから分け前を、とは。
そのぐらい図々しくないと、この世界では長生きできないのかもしれない。
見知らぬ飼い主は、新しい戦士でまた挑むのだろうか。
(だからだよね。こっちの言値にあっさりと同意したのは……)
『自分がごねてるってわかってるんだろうな。ダメ元ってやつだ』
「ああいう使い捨て武器は値段のわりに、効果があるかは運が絡むからなあ」
「だよね。別に大した金額じゃなかったし、修理代ととんとんでしょ。それより、今後の話だよ」
「そりゃそうだがよ……ま、接近戦で命を張ったセイヤがいいなら、な。よし、話を変えよう」
リングもエルデもどこかあきれた様子。
でも、お嬢様ならこうするかなと思ったのだ。
ちらりと見れば、微笑むお嬢様。
誰であろうと、簡単に命を奪うもんじゃないという考え。
でも、必要なら仕方ないという割り切り。
そのあたりが、俺が気に入っているところだ。
「ソフィア、いつもこうなの? 素直な子ね」
「ふふ、そうですね。セイヤはいつも……」
「あーあー、やめてよそういうの! それより、戦い方はそろそろ変えたほうがいいんだよね?」
こちらに色々と飛んできそうな流れに、改めて話を切り替えるべく声を上げる。
たぶん、顔が赤くなっている気がするけど、気にしない。
頭の中でプレストンが笑ってるのも、気にしない。
「確かに、実質同じ展開が続いた……前衛を叩き、誘った後衛を、という流れ。中身が違うのは、慣れてる観客にはわかるだろうから、文句は出ていないがな」
「そうなんだよね。かといって、変な戦い方をして負けちゃ意味ないし……」
すぐ修理に出すか考え中な俺の機体を見ながら悩む男2人。
女性2人は、タブレットをあれこれと操作中だ。
悩みつつも、答えの1つはわかっているのである。
「いろんな武器をとにかく使ってみようかなあ?」
「だな。得意なのはなんだ? ブレードとかか? 遠距離の撃ち合いか? いや、これはないか……」
これまでの戦いから、考えをまとめ始めるリング。
真面目なところ悪いけれど、当たってるし外れてる。
「何って、全部? うん、全部」
「は? 冗談は金にならねえぞ」
さすがに少し怒った様子のリング。
そりゃ、知らないとそう思うよね。
お嬢様も、どこまでやれるかはよくわかってないはずだ。
「直す間にさ、リッポフ商会でテスト用のMMWと武装を借りよう。確か、訓練用に借りるのは安いでしょ?」
「あ、ああ……」
戸惑う3人を引き連れて、商会の窓口へ。
タブレットでも、記憶でも見た通りに確かに借りられる。
予備機でもあるタルクスに、一通りの武装。
ランク2で可能になるあれこれの1つが、この借りるという行為だ。
ランク1じゃ、信用なんてないって話だね。
ランク2から借りられるけれど、壊した時は買取である。
『文字通り、頭に叩き込んでやる。好きにやれ』
(もちろん。不必要な出し惜しみはなしだ)
見守られながら、訓練スペースに機体を動かし……テスト開始。
動きを思い出すかのように、1つ1つだ。
すぐに、戸惑いの視線を感じるようになった。
「こいつは……」
リングの声を聞きつつも、集中。
驚き、困惑、そんな感情のこもった声だった。
無理もないように思う。
今の俺は、プレストンの助言と力も借りつつ、自分のものにしていっているのだから。
まずは近接武器による攻撃を一通り。
「次……よし、じゃあ次は」
次のテストは小さめの手持ち武器、人間でいう短銃みたいなサイズ。
撃てば、的自体には必中。
まだ中心からぶれることに、自分では納得いっていない。
無駄弾もないから、費用だって抑えられているはずだけど、もっとだ。
そうして、どんどんと武器を変えて、テストを行っていく。
「近接、至近距離での射撃、ちょうどウォーピックやブレードが届かないような距離での銃撃、そして遠距離たち……最後に狙撃、かな」
時間にして1時間もないはず。
長いほど、費用がかかるし。
「1つ1つはランクのわりには良いってぐらいだが……。お嬢様よぉ……あんた、とんだ拾いもんしたな?」
「私にもここまでとは……セイヤ、すごい」
「すごいなんてもんじゃないよ。まるで、全部経験したことがありますって腕だよ」
2人の感嘆、そしてエルデのある意味正解な評価に一人苦笑しつつ、テストを終える。
さあ、後は今後の戦いをどうするかを決める時間だ。




