MMW-036
「次、ターゲットが倍だ」
「了解。ねえ、こんな楽でいいの?」
「最初はこんなもんだ」
文句を言いながらも、仮想ターゲットを撃つ手は止めない。
操作に従い、データ上の弾丸がこれまたデータ上のターゲットを貫く。
ただの的当てだが、これも稼ぐための時間だ。
と、リングの言うようにターゲットの数が一気に増えた。
実際には2人でやってもいいのだが、俺の訓練として1人で撃っている。
「ライフルは弾によって速度も違う。好みのを見つけるといい」
「そんなもんかー。なんでも大丈夫だけどね」
調子に乗った発言に聞こえるだろうけど、本当のことだ。
もともとの俺の素質が開花したのか、プレストンから学べたのか。
妙に、弾道が見える。
(1つ、2つ、次は……ここか)
今度のターゲットは動く。
時にはフェイントのように動きを変えるが、弾道と同じように、ターゲットの動きまで見えた。
それを参考に、ライフルの弾を置くようにして放ち、当てる。
おそらく、仮想と言いながらどこかのメタルムコアの力を使って生み出しているのだと思う。
だから、その力の流れが見えてしまうのだ。
「撃った反動も実機まま。すごい技術だね」
「そうだな。嘘か本当か、試合自体を完全に仮想で行える場所があるとかないとか」
(仮想で試合、か。本当なら命を奪い合うこんな試合も……いや、考えてもしょうがないか)
俺は今、このコロニーで戦うしかないし、リングだってそう。
運が良ければまたアデルに誘われて外で仕事ができるかもしれないけれど。
『外か。他のコロニーに出かける機会も増えるかもな』
(いつになるだろうね。他のコロニーもこんな感じなのかな)
外には荒地が広がり、どこか茶色ばかりの目立つ世界。
古く、新しさのないように見えて、こんなところは妙に新しい。
俺にとっては当たり前だけど、本当はおかしいんだろうなとも思う。
これもみんな、プレストンを通してかつての文明の存在を、知ってしまったから感じるものだ。
空を見て、空に舞い、そして……自由を。
「残弾に注意しろ。本番はリロードで失敗することも多い」
「了解。エネルギー銃だとその辺いらないもんね。早めにリロードする」
ターゲットが少なくなったのを見て、MMWを操作。
仮想のカートリッジが飛び出し、同じく仮想の銃に差し込まれる。
実際には、腰とかに備え付けておくのだとか。
試合じゃ、それを狙って予備弾を落としていくのはありかもね。
「撃ち返してもこないし、本当にこれでいいのかな……」
「そんなこと言うからだ。次は撃ってくるぞ」
「おっと、失敗失敗」
あきれたようなリングの声に警戒を強め、増えたターゲットを見る。
浮遊する球体に、いくつもの銃がくっついている。
まるで外で見たさび付いた機械のような、人の気配を感じない、凶器。
『! よけろ、早いぞ!』
「っとお!? 何、これ!」
プレストンの警告を聞くのと、感じるままに回避したのはほぼ同時。
仮想空間に、光が走る。
撃ってくるだけにしては、なかなか鋭すぎる攻撃。
「リング、これが普通?」
「い、いや……こっちには撃ってこないし、なんだこれは」
少々アクシデントってやつみたいだ。
実際、単に自動で展開されるターゲットにしては妙に動きがいいような。
そんなことを思いながら残り時間に気を付けつつ、回避と攻撃。
鋭い動きといっても、しょせんはただのターゲット。
こちらの攻撃が当たればすぐ止まるし、相手の攻撃も比べれば早いというだけ。
その、はずなのだが……。
『次が来るな。気をつけろ、中身入りだ』
(中身? ああ、なるほど……)
仮想空間の反対側に、急に何か扉のようなものができたかと思うと、特徴のないMMWが2機。
なぜMMWとわかったかといえば、人型の機械で、武器を手にしてるからだ。
おそらく、もともとの想定には無い展開だと思う。
だって、試合前の余興だって言ってたもんね。
「リング、やろう。多分、それが狙い」
「十分時間は稼いだんだがなあ。ま、ボーナス狙いも悪くないか」
仕方ないなあなんて声を聞きながら、謎のMMW2機と対峙。
仮想のはずなのに、熱気を相手から感じたような、そうでもないような。
でも、こんなことをする人間には心当たりがある。
「腕の1本ぐらいは、もらってくよ。アデル」
返答は、訓練の時に見た動きだった。
速さは、比べ物にならないけども。
『全力だっ! 出し惜しむな!』
(当然っ!)
珍しく声を荒げるプレストンに答えつつ、リングのおっちゃんと一緒に動き出し……。
あっさりと、何分も持たずにやられる俺たちがいた。
「たはー、負けた負けた!」
「だねー! でもさ、あのアデルから宣言通り腕1本もらったんだ。上等でしょ」
短い戦いなのに、二人とも汗だくだ。
仮想での敗北なのに、まるで本当に機体ごと貫かれたかのよう。
どうにかこうにか、腕をもらい、相手がそのことを口にしながら去っていくのを見守るしかなかった。
周囲の視線とその評価が、多少は変わったような気がするのが唯一の報酬なのかもしれない。
「試合、見てくか」
「うん……」
そのうち駆けつけてくるだろうお嬢様とエルデを思いながら、汗が引くのを待つのだった。




