MMW-034
「バブルゴールド、ですか。なんとも微妙なあだ名ですね」
「仕方ないよ。実際その通りな部分もあるし」
「それはそうなんですが……」
それを知ってから、お嬢様はずっとすねたように怒っている。
ランク2に上がり、初戦を終えて俺についたあだ名が原因だ。
──バブルゴールド
由来は単純だ。
俺がそれだけ順調に勝ち上がってきたように見えるのだ。
問題は、これまでに何人もこのあだ名を持っていたということ。
そう、持っていた、だ。
「このあだ名の持ち主が迎える結末。やはり、あまりい気分では……」
「お嬢様が気にしてもしょうがないよ。そんな運命が決まったような話なんてね」
さっきとは違う感じで、勝手に怒ってくれるお嬢様。
そのことがうれしくもあり、心配でもある。
俺たちの戦いは、ショーなのだから。
『あだ名をつけられた戦士は、大体がすぐに立ち消えていく、と。泡のような稼ぐ姿ってな』
(そういうことだよね。住む場所も、あからさまだしなあ)
気に入らないかといえば、どちらかというと好きだ。
むしろ、このあだ名で俺を見ている連中がどういう顔になるかが楽しみだ。
だって、ここから先も勝つのだから。
『その意気だ。ま、環境は悪くない。目立つ分、泥棒だとかには縁がない立地だからな』
そうなのだ。この建物のある場所は、なかなかにとんでもない。
まだ怒った様子のお嬢様をなだめつつ、明るい窓の外に目を向ける。
行きかう人々が少し離れた場所に見え、けばけばしい灯りが壁をはい回り光っている。
なんと、すぐそこに闘技場のある区画への扉があるのだ。
この建物とは車が2台すれ違えるぐらいの距離しか離れていない。
どの区画にも、こういう場所があるらしいのだけど、ランク2が多いこの区画は少し特殊。
さっき考えたように、あだ名のついたやつが住むらしい場所なのだ。
家賃的なものはあからさまに安く、補給だって遅延なく行われる。
「出入口が裏なのはいいですけど、あちらから見えないとわかっていても窓が気になります」
「それはね。ぴったり貼りつけばうっすら見えるらしいけど、こっちからするとただの不審者だもんね」
外の喧騒が見える窓は、不思議な造りだ。
こちらからはしっかり見えるが、外からはただの鏡面な壁なのだとか。
幸い、普通の窓の大きさだから、何かあって丸見えになっても大きな問題はないだろうけど。
「MMWを出し入れするときとか、外のランプが光るんだもんな。ま、すぐ慣れると思う。で、機体が搬入されたって?」
「ええ、そうです。ついさっき。確認してください」
おもちゃを与えられて喜ぶ子供ではないが、新しいMMWが気になるのは間違いない。
お嬢様についていく形で、新しいガレージに。
つい先日、新しくなったばかりの設備はちゃんと引っ越しされていた。
その一角にたたずむ、メタルムコアの抜かれた愛機としてのMMWタルクス。
今度、汎用品としてのコアは注文しておかないといけない。
そんな隣に置かれた見覚えのないMMW、これが新しい機体。
汎用MMWの1つ、プラストーン。
単純にタルクスの上位互換機ということだけど、どこまでが限界かはまだわからない。
(目の前の機体には、メタルムコアが移設されている形のはず……)
「乗り込み方は変わらず、か」
人間でいうお腹の横から、コックピットへ。
広さは俺が手足を伸ばして余裕で横になれるぐらいはある。
タルクスより、拳3つ分ぐらい広い気がする。
『少し、腹回りが太くなった分、中は広いはずだ』
(そんなもんか……あ、でも高さは少しあるね)
全高がタルクスより頭2つ分は高い。
その分、足元に注意しないといけないと感じた。
機体に意思を伝えるための操縦桿。
ほかにも計器やスイッチ的なものはあるけれど、重要なのはこれ。
シートに座り、それを握りこむ。
初めてなのに、どこか慣れ親しんだ感覚。
それはおそらく、プレストンの記憶にある経験がそうさせるのだと思う。
未来の俺(勝手にそう考えることにした)は、色々なMMWに乗り、戦ったのだろう。
けれど……納得いく結末は迎えていない。
『……どうしてそう思った?』
(簡単。じゃなきゃこうやって口出ししないでしょ)
そう考えたら、プレストンは押し黙った。
やっぱり、こういうところは俺だなと感じつつ、お嬢様にテストは良好だと告げる。
外に向けて発声するスピーカーも、ちゃんと動いているのが確認できた。
もう少し確認をしたら、リングのおっちゃんたちと今後の相談をする時間だ。
どんな戦いが待っているか、今から楽しみである。




