MMW-033
「ご存じかもしれませんが、ある程度までガレージの構成はほぼ一緒なのですよ」
「ということは、家具や設備の移動だけで済むのか、なるほどなあ」
リッポフに付き添っている護衛が、まるで店員のように差し出してきたカタログ。
そこには、いくつかのテーマ別にそろえられた内装が描かれていた。
MMWの性能には全く関係ないらしいけど……。
(ここにこだわってもなあ?)
『ソフィアは気にするかもしれないな。聞いてみたらどうだ』
「お嬢様、好きなのにしていいよ。俺はこだわりないし」
プレストンに言われるままに口にしてみると、どうやら正解だったらしい。
本当ですか?なんて声を上げ、お嬢様がカタログに夢中だ。
横を見ればリングのおっちゃんもエルデも、別のカタログをタブレットで見ているようだった。
逆に俺はちょっとどうしようかなという感じに。
「そうだ、1つ聞きたいんだけど。MMWを増やすにはどのぐらいかかる?」
「おや、さすがですね。次の提案はそこになります。ああ、ガレージの引っ越し費用は勉強しておきますよ。輸送車両に護衛付きです」
「それは助かるけど、どうして?」
うまい話には裏がある。
これは俺だってわかることだ。
やり手の商売人であるリッポフとなれば、一体どんな……。
「引っ越せばわかりますよ。それにこれは内緒ですが、賭けさせていただきました。勝つと考えていましたからね」
「まあね。でもはした金じゃない?」
「さあて……お二人がよければ明日にでも手配しますよ」
示された金額は、報酬をもらうまででも十分払える額だった。
であれば、話に乗ってもいいと感じる。
行けばわかるというのが少し気になるけれど。
「セイヤ、いいじゃねえか。そばに来てくれれば何かと便利だ」
「そうだね。お嬢様、今いい?」
「ええ、聞いてましたよ。そうしましょう」
カタログに夢中ながら、話自体は聞いていたらしい。
まだ視線はカタログに向いてるけど、ちゃんと返事が返ってきた。
「じゃあよろしく。機体は……悩むね」
住む場所の問題はひとまずこれでOK。
じゃあ次は機体ってことになる。
ランクが2にあがり、使用されるMMWも少し変化すると聞いている。
具体的には、プラストーンと呼ばれるモデルが増える。
今のタルクスより、多少拡張性や基本性能が上がってる……らしい。
プレストンが頭に刻んだ記憶からの物だから、知ってるだけ、なんだよね。
「俺たちは長くプラストーンを使っている。一緒にすると、いざというときのパーツ融通が可能だが……」
「タルクスのほうがいい場面もあるわけだよね?」
問いかけに、頷きが返ってくる。
機体のランクがあがると、修理費などもあがる。
そうなると、乱戦や消耗が前提の試合などだと、安く上がるタルクスのほうがいいこともあるわけだ。
俺の場合、被弾らしい被弾をしていな……いや、一回大きく腕が飛んだか。
でも、それぐらいといえばそれぐらい。
(何より、メタルムコアの限界値が上がるだろうことが大きいよね)
預けているサファイアもそうだし、今後メタルムコアとそのランクも上げていける。
そうなると、機体がついてこれなくなるほうがつらい。
「試合の内容で、倍は変わるな。あの時も俺はってそんなことはいいか。確かセイヤのMMWはコアを買い替えてあったはずだな。そのまま流用できるはずだ。タルクス自体は予備機としておくのがいいんじゃないか?」
「そうしようかな……いくらなのか、ずっと待ってる人に聞かないといけないけど」
にこにこと、視線の先で待っているリッポフ。
そしてそばにいる無表情の護衛2名。
この護衛、本当に人間だろうか?
『考えないほうがいいやつだな。あと、あの視界で見るとバレるぞ』
(了解。このまま知らないふりをするよ)
「プラストーン1機であれば、すぐに、そしてお安く。何せ、観客からの寄付がありますからね」
「寄付……?」
「マジかよ、リッポフ。ってことは、住む場所ってのもアレか。また良くも悪くも騒がしくなるな」
引っ越しに続いて、機体までサービスがあるという。
正直、怪しい、怪しすぎる。
そして、リングもこの状況に心当たりがあるらしい。
「リング、説明してくれると嬉しい」
「すぐにわかるさ。悪趣味だってのは間違いない」
それ以上は現場に行ったほうが早い、と言われてしまう。
戸惑いながら、まだカタログを気にするソフィアお嬢様を呼び、移動を始めるのだった。




