MMW-032
勝利、そして自分への掛け金。
それが今回の試合で俺が得た物。
これでMMWを交換したり、武装をそろえたり。
と、一緒に戦ったリングが妙なテンションだったので、理由を聞いてみたところ……。
「お、おじさん……正気? お金全部賭けてたって」
「おうよ。あ、もちろん俺1人の考えじゃないぞ。ちゃんと相談してどうするか決めた」
控室に戻り、ねぎらいの言葉をかけようとしたが、そこには妙にうれしそうな2人がいた。
理由を聞いて、納得と同時に驚いてしまう。
生活費も全部、自分たちの勝利に突っ込んだのだと言われたからだ。
「だからと言って……そりゃあ、私も2人の勝利にそれなりに賭けましたが……」
あきれた様子のソフィアお嬢様。
当然と言えば当然の話だと思う。
だって、外れたらもう終わりなんだもん。
『こういうところがあるんだよな、この2人。いつかも、なんだかんだ勝って生き残っていた』
(そういう運命ってやつ? それにしたってさ……ま、いっか)
勝利して、なんとかなった。
この事実は変わらないのだから、突っ込んでも仕方ない気がしてきた。
「借金もほぼ返せた。一発逆転だぜ。ありがとな、坊主、いや、セイヤ」
「こちらこそ。おじさん、リングと組めてよかった。いい援護だったよ」
差し出された手を握り、笑みを浮かべたところで、なんだか変な感覚が襲ってきた。
自分の体から何かが伸びて、それがリングからの何かと混ざった気がした。
(これは、試合中に見えた光と似た感じの……)
MMWのメタルムコアが生み出す力の光。
それと似たような何かが、自分たちから出てくるのが見えた。
これはつまり、人間にも……。
『詳しいことはそのうちわかるさ。相性が良いってことだけ覚えとけ』
(りょーかい)
気を取り直し、リングとしっかり握手。
というか、これからもしばらくは組む予定だったよね。
「余裕ができるまで、今の装備で行くか、整えるかどうしたい。組む相手の希望を聞こう」
「んー、ひとまずは無事にガレージに帰ってからにしない? こう、ないとは思うけど逆恨みとか怖いし」
俺の言葉に、場が少し冷え、「あー……」って声が聞こえた気がした。
今回勝利した相手は、俺たちを負かす気満々だったはず。
もしかしたら、負けるはずがないと大賭けしてた可能性もあるのだ。
それがふいになり、大きな出費が痛手になったはず。
さすがに殺されるようなことは……いや、どうだろうな?
「確かにセイヤの言う通りですね。お二人のガレージはどこの地区でしょう?」
「あ、ああ。そうね……ええっと」
そうしてやり取りした住所は、見事にすぐ隣の区画だった。
それこそ、俺たちは引っ越しの可能性もある。
今のガレージは、駆け出し用の立地でもあるのだから。
そんなことを考えていると、来客の合図。
試合結果と報酬のお知らせにしては、早い気がする。
「お嬢様、一応後ろに。リングのおっちゃん」
「リングでもおっちゃんでも好きにしろ」
2人でそれぞれの飼い主をかばう形で返事。
リングの操作で開いたドアの向こうにいたのは、リッポフだった。
最初に見たときと同じ、いかつい護衛を引き連れている。
「どうも、お二人とも」
「なんだ、アンタか。勢いのあるルーキーに商談かい?」
「いやいや、生き残ってこれからのおっちゃんにでしょ」
2人して冗談めかして言ってみたところ、リッポフは笑みを浮かべたまま。
それはどこか不気味で、頼もしさも感じる不思議な表情だった。
「いえいえ、そのどちらもですよ。まずはソフィアさんとセイヤさんに、防犯のためのお引越しの提案ですが……ええ」
話が早いとはこのことか。
つい先ほど懸念事項として口にしたことが、もう動き出しそうになるのだった。




