MMW-031
コックピットに響く、観客を煽るひび割れた声。
そういえば、この会場の声は誰がやってるんだろうか?
そんなことを考えるほど、声の中身は飾り付けが多く、中身のないものだった。
それに応えるような会場の歓声。
聞こえる声のうち、どのぐらいが現実を見ているのだろうか。
もしくは、知っていても見なかったことにして今を楽しんでいるのかもしれない。
飼い主、観客でいられるというのはそれだけ明日があるのだから。
『相手も出てきた。ははっ、とても分かりやすいな』
「撃ちたくてたまらないって表情が見えるようだ……」
相手のMMWは2機。そりゃここで1機だったり、3機だったりしたら嫌だけど。
どちらが前に出るかでもめたのか、横並びの2機はどちらもいかにもな装備を背負っている。
何発も同時に撃てそうな発射管、それがロケットかミサイルかはわからないが。
「坊主。いいな」
「うん。計画は変更なし」
たった1つランクが上がっただけなのに、闘技場の感じも違う。
なんでも、流れ弾の威力も上がってるから防壁に金がかかってるとか。
(そんな金があるなら……いや、いいけどさ)
「突撃っ!」
試合開始の合図、命のやり取りを始める合図。
響く独特の音に、機体を前に押し出す。
自分たちが遠距離攻撃を狙っているのは見えているはず。
なのに突撃してくるとなれば、焦った若いほうが突出したようにしか見えないはずだ。
(見えた、これがプレストンが、未来の俺が見てる世界!)
集中し、プレストンの技術を一時的に自分のものとする。
メタルムコアの力、ウニバース粒子の姿、その流れ。
瞬間、世界に光があふれた。
敵機の放った物体が、ロケットなのかミサイルなのか。
その違いが、光の線となって見えていく。
中に込められた、メタルムコアからの力が丸見えだ。
『当たるコースなのが1、2、5!』
(わかってるっ!)
プレストンの情報と、自分で得た情報とが合致し、機体をわずかに横移動。
そうすることで誘導能力のないロケットは回避、そして……。
俺や一部にだけ見える光のしっぽを従え、向きを変えるミサイルをにらむ。
「セイヤ! え、撃墜した? 全部?」
「おっちゃん!」
お嬢様の声にこたえるより早く、追ってきたミサイルを撃墜する。
煙幕代わりになるように、エネルギー銃ではなく実弾で。
都合、8発のミサイルを一気に無力化だ。
派手さを演出するために、試合で使う武器は、火花や煙が多く出る。
それはこのミサイルたちだって一緒、なんならこっちのほうが派手まである。
その結果、撃墜されたそれらは煙幕のようになり、俺の姿を隠す。
後は相手が何が起きたかを理解するより早く攻撃をって、やるじゃんおじさん。
『近いほうに攻撃を叩き込む、無難だな』
俺が言うより早く、おじさんが動いていた。
なんだかんだ、生き残ってるのは確かなのだ。
撃破にはいたらずとも、機体が揺れて攻撃どころじゃないはず。
となれば、俺の役目はもう1機!
「調べたからわかる。その辺の武装、上には弱いんだよなっ!」
余分な武装を持たせず、装甲もかなり減らした。
盾で防ぐを目的とした機体は、軽さも特徴。
増設したブースターの向きを変え、一気に吹かす。
ぐっと体にかかる重みに耐えつつ、飛翔だ。
すぐ足元に、相手のあてずっぽうに放った実体弾が通り過ぎる気配がした。
「でかいコンテナだと思えばっ!」
ミサイルの生み出した煙で、相手が見えにくい。
それはあちら側も同じで、ろくに狙いが付けれていないはず。
周囲の煙を従えて、勢いよく煙幕を突き抜ければ、予定通りもう1機の斜め上。
頂点付近で今度は逆に下向きに。
きっと、相手にも聞こえるぐらいの音が響いた。
そうなればついそちらを向くのは人間の性。
たとえ武器が使えない状況でも、だ。
「上を向いたな?」
試合を楽しむための、強烈なライトが天井にはたくさんある。
それが、MMWのモニターを染め上げ、目がくらんでしまうはず。
何度も体験した俺からしても、キツイ状況が生まれるのだ。
『高いMMWだと防げそうだが、このランクだとな』
相手の動きが鈍いのを感じ、そのままウォーピックを展開、敵機にぶっさす。
どちらかというと、撃破よりも着地支援のために落ちる威力を殺すため。
予想より威力があったのか、相手の左肩を中心に破損させつつ、仰向けに倒すことに成功。
「味方に当たるかもしれないのに、思い切りだけはいいねっ」
もう一機が、おじさんの攻撃に浮つきながらも俺を認識したらしい。
とっさに肩を動かし、盾を向けたとたんに着弾。
がりがりと肩の盾が削れていくのを感じる。
そのまま進めば、隙間からどうしても被弾していく。
相手はその姿を見て、行けると思ったりもしたかもしれない。
けれど、俺のほうを向いていていいのか?
「坊主、合わせろっ!」
「りょーかいっ!」
声にあわせて、さらに距離を詰めることで相手の動きを制限。
近距離に意識を向けさせ、そこにおじさんからのさらなる攻撃。
装甲が薄かったらしい箇所に攻撃を受け、敵機は沈黙。
さてさっきひっくり返したほうを……ん?
『衝撃で気絶したらしいな』
「ふむ……おっちゃん?」
「ああ、やれちまったようだ。ははっ、坊主。いや、セイヤ、生き残ったぞ」
見えてなくてもわかる。
いい笑顔だろうおじさんの声を聞きつつ、ソフィアたちにも声をかけるのだった。




