MMW-029
「本当に若いな……何年だ?」
「見てない? まだ半年もたってないよ」
ようやくの顔合わせ。
試合前日、やっと相手が公表され、会うことができたのだ。
試合会場にある談話室で、俺たちは一人の中年臭い男と、同じぐらいの年頃の女性と出会った。
男は灰色の髪に、少し疲れた様子の顔。体つきはまあまあいいと思う。
対して女性はどこか落ち着いた様子の、なんていうか飼い主に向いていない人だった。
腰まで伸ばした黒髪に、ごく普通の衣服。
顔には、自信なさげで、あいまいな笑みが浮かんでいた。
『長い付き合いだから、今更離れるのもなって感じだな。どこでも変わらない、いい奴なんだがな』
(ふーん……そういうってことは、悪くない相手なんだね)
この相手と組むことを、彼が否定しないということはそういうことだ。
「半年、いや、まさか……マジかっ。本物はいるもんだなあ、おい。エルデもそう思わないか?」
「確かに驚きですけれど、自己紹介ぐらいはしないとダメよ、リング」
がけっぷちにいるはずなのに、態度に卑屈な感じはしない。
それは、本人の気持ちの問題か、横にいる女性の存在のせいか。
気を許した会話からして、もう夫婦とか言うやつに近いんじゃないか?
「じゃあ駆け出しの俺のほうから。セイヤ、性は当然ないよ。で」
「私はソフィア・グランデール。一応貴族ですけど、吹けば飛ぶような末端です。お気にせず」
特に気にせず語った俺と比べ、お嬢様はそれっぽいと感じるしぐさで頭を下げた。
その姿に、なんとなく身分の違いのようなものを感じつつ、気にしないことにする俺。
対するリングとエルデは……驚いた様子だった。
「マジかよ。今日は驚いてばかりだな。これも奇縁、運命か」
「リング……」
「どういうことで……まさか、何か両親のことでご存じなのですか?」
お嬢様の問いかけに、目を伏せる2人。
あまりいい話ではなさそうだが、どうしたものか。
プレストンが押し黙ってるから、好きなようにしろってことだと思うけども。
「お嬢様、それじゃ話しにくいよ。二人とも、ええっとどっちが飼い主かはよくわからないけれど、お嬢様は突然こうなって俺を買ってるから、何も知らないようなもんなんだよ。でも、恨んでない。それは確かだよ」
「……そうかい。じゃあ1つだけ。明日の試合、うっかりでも死ぬわけにはいかなくなった。生きるぞ、坊主。勝ったら話そう」
「当然。負ける気なんてないよ、おじさん」
戦士の表情になったリングに、こちらも笑みを浮かべて手を出し、握手。
お嬢様とエルデは、何やら無言でうなずきあっている。
どうするかというところで、リングに腕をつかまれ、控室から連れ出される。
そこには明日の試合に備えて、すでに2人のMMWが運び込まれていた。
事前に組んだままの俺の機体に、リングの機体。
リングの機体は、いかにもと思ってしまうものだった。
随所の装甲版に、消耗のないエネルギー兵器。
近接武器すら、おそらくメタルムコアからのエネルギーを使う刃を出すものだ。
「……そのよ」
「いいよ、わかってる、弾薬も節約したいんでしょ? わかるよ」
ばつが悪そうな姿に、軽くそう言って向き直る。
戦士であり、きっとあのエルデ、彼女にとっては大切な人間だ。
だから、生きあがいてるのだ。
俺もどこか似たようなもんだ。
それに、お嬢様と何か関係があるなら、これっきりとはならない。
しばらくは、組むことができそうだ。
「もう少し気楽に行ってもいいと思う。何せ、最近落ち目のおじさんと、上がったばかりの俺。どう考えても相手にとってはいい餌だよ。絶対いたぶるつもりで油断してくる」
「なるほどな。坊主、案外イケる口じゃねえか」
「じゃなきゃ、生き残れないよ。作戦は俺が前、おじさんが後ろで。俺が勢いよく飛び出せば、相手もそんな感じで勘違いするでしょ」
どことなく相性はよさそうだけど、それはそれとして出会ったばかり。
しっかりした連携は望まないほうがいい。
となると、お互いに動きやすい、邪魔をしない動きとは?となる。
「問題ねえ。坊主、得意な動きを教えろ。相手だって自分のほうがいかに儲けるかで欲が出るに違いねえ。そこをつく。組む相手を仲間と思っちゃいねえさ。俺たちと違ってな」
負け続けて、それでも生き残ってきたリング。
事前にプレストンと考えた通り、彼は組むにはいい相手だと、その時とても納得した。




