MMW-028
「夢みたいな時間だったね……」
「はい、まったくです」
俺たちがいるのは、コランダムコロニーのガレージ。
そう、あの後鑑定もさくっと終わり、その足でコロニーに戻ることに。
戻るときにも、鉱山からの資材をコロニー用に積み込んでの旅路だ。
行きと同じように、やや過剰に感じるアデルたちと一緒に何も問題なくたどり着いた。
報告と、貴重品として青石……サファイアをベルテクスに預けたところで夜になっていた。
「お嬢様、よく思いついたね。ベルテクスに預けるなんて。俺は金庫でも買うしかないと思ってたよ」
「私たちは、まだまだ駆け出しですからね。セイヤが連勝して、注目は集めていますがそれだけです。逆に、注目が集まってる分、危ないと思いました」
この辺は、俺のほうが甘かったということかな。
確かに、お嬢様の言う通りかもしれない。
ガレージに戻ってくるときにも、視線を感じたもんな。
(防犯装置も買わないといけないのかな……めんどくさ)
『妨害はなくはないと思うが、視線を集めてたのは違う理由だと思うぞ』
そんなプレストンの声に、内心で首をかしげながら帰り道のことを思い出す。
貴重な訓練をしてくれたアデルだが、帰りにも何度も助言をくれた。
彼曰く、
・関節回りと武装の耐久に気をつけろ
・武器の無力化、破壊を狙う戦士が増える
・降参を聞こえなかったフリをして、とどめを刺すやつもいる
こんな感じだ。
正直、何それ怖いという感じである。特に最後。
それで試合が盛り上がるんだろうか? よくわからない。
「その辺はリッポフとかに聞いてみよう。で、試合ってどんな感じになりそう?」
「……それがですね。特別試合が明後日、いきなり組まれました。MOHS2へのランクアップと同時にとのことです」
ランクアップ、いいことだ。
けれど、特別試合ってなんだろう?
硬い表情になったお嬢様の手元のタブレットを覗き込み、ちょっとだけ後悔した。
武装自由、機体自由、それはいい。
問題は、コンビ戦ということだった。
組む相手は当日までお互いに不明という部分が、何とも言えない。
どうやら、MOHS2からは1人同士と2人同士の戦いとなるらしい。
「相手も組み人も不明、か。うーん……どうしようかなあ……」
「何があってもいいように、汎用性を高めた装備にすべきですかね」
本当なら、このまま2人して頭を抱えるしかなかったと思う。
けど、俺は少しばかり余裕があった。
なぜなら、プレストンからはどちらかというと楽観的な気配を感じるのだ。
自分の頭の中なので、気配というのも少しおかしいのだけれども。
『タブレットを操作して、MOHS2のランキングを見てみろ。すぐにわかる』
「どんな相手がいるか候補ぐらいは見ておこうかな……」
その言葉に従い、自然な感じでタブレットを操作。
一番下には俺、その上に……と名前が並び、タップすると情報が開く。
無料だから、簡易的な情報だけどもそれでも結構な情報量だ。
「名前と機体名、そういえば私たち無名ですね。それはともかくとして……戦い方、それに最近の戦績、ですか」
「結構試合数に偏りあるね。それに……ああ、そういうことか。お嬢様、俺たちの組む相手はコイツだと思う」
そう言って俺が指さしたのは、俺の少し上の人物。
年はかなり上、それでいて最近の戦績はかなり落ち目だ。
つまり、負けが込んでいる。
命がけの戦いで、生き残るだけの実力はあるのだと思う。
敗北し、だんだん余裕もなくなり、それでももがいている。
もしかしたら、敗北という役目を負わせるために周りも手加減してるのかもしれない。
「生贄、ですか」
「だろうね」
『だろうな。記憶を抜きにして、それが一番盛り上がるからだ』
他人事ながら、あまりといえばあまりの出来事に少しイラつく。
考えてみれば、俺は勝ち上がってきて、勢いがある。
それが休養に入り、戻ってきたと思ったらランクアップ。
面白くないと思う人もいるだろうし、そうなるとどうなるのが盛り上がるか。
その考えをお嬢様に伝えると、彼女も同意見のようだった。
「十分あり得ると思いますよ。セイヤは頭がいいですね。その考えにたどり着けるなんて」
「たまたまだよ。ほんと、たまたま」
今更だけど、感心されたのが少し心苦しい。
いつか、お嬢様にもプレストンのことを言うべきだろうか。
彼は、お前に任せる、俺のことだから俺が決めろとは言ってくれたけれど……。
まだ怖くて、お嬢様がプレストンの記憶ではどうなっているか、聞けていない。
聞いてしまったら、その未来が確定してしまいそうで……。
「ともあれ、この人が相手だと想定して、調整しましょうか」
「そうするよ。ウォーピックを左右に、最悪足が故障しても飛ぶように動けるように、各所のブースターは強化、武装は普通に実弾銃とエネルギー銃、それに肩武装はなくして廃材を盾に加工して装備しよう」
明日には本番となれば、時間は本当に限られる。
やれるだけのことをやって、組む相手を味方につけて、勝利をつかもうじゃないか。




