MMW-027
歩く、歩く。
意識したことは特になかったけど、言われてみると少し緊張。
最初は、どうやって歩かせてたんだっけ?なんて変なことを考えてしまった。
『大丈夫だ。操縦桿はイメージを強固にするためのもの。最悪、何もなくてもMMWは……動く』
(何も、なくても……)
ささやくような頭に響く声。
確信に満ちたその声に、混乱が収まっていくのを感じる。
何分もそうしていたように思うけど、実際にはほんのわずかな時間だったんだろう。
無線からは特に問いかけはやってこないからだ。
「よしっ」
しっかりと操縦桿を握り、一歩、二歩、三歩。
目標代わりのコンテナに、機体を動かしていく。
気のせいか、いつもより手ごたえがあるような、そんな気分。
「コンテナ、飛び越せるか」
「了解。やってみる」
無線からの短い言葉。
迷わず機体を制御し、ジャンプ。
ちょっとしたものなら飛び越えたことはあるけれど、このコンテナはなかなかでかい。
平均的なMMWほどはあるだろうそれを、飛び越えることができた。
コックピットの中にいるのに浮遊感と、風を切る感覚がした。
着地も、勢いそのままじゃなく、機体全体を使って衝撃を吸収する。
自分が生身でやるならこうだなという動きを、させることができた。
『着地も問題ない。調子がいいじゃないか』
(なんとか、ね)
「できた……次!」
「よし、予想よりいい動きだ。一発で飛べたやつは、数えるぐらいしか知らん。では次は射撃だ。闘技場の物より、さらに威力を抑えた弾丸が入っている。命中精度を確認する」
アデルの動かすMMWが手にしたライフルを受け取り、ターゲットらしきものを見る。
いびつな丸が描かれてるあたり、よく使われてるのかもしれない。
止まってる相手なら、気合いを入れる必要もない。
これまでの練習や戦いを思い出しながら、撃ち込んでいく。
ついでに、左右に揺れながらだ。
勝手なことをと怒られるかと思ったけど、正解だったらしい。
その後も、様々に基本動作を繰り返し、評価を受けるという時間が過ぎる。
「そこまで! どうだ、気分は」
「最高。やっぱり、すごい贅沢な時間だと思う」
お世辞抜きで、本当にそう思うのだ。
悪いところは的確に、いいところは褒めてくれる。
正直、話がうますぎて今後が怖いぐらいだ。
「セイヤこそ、ほぼノーマルの機体でよくも動かすものだ。確かメタルムコアは買い替えているのだったな」
「当たらなければ負けないし、早く当てれば勝てるからね。俺ぐらいのランクじゃ、武器の威力なんて大差ないからさ」
『盛り上がりのためには、そうなるからなあ……今考えても、少々品のないものだと思うが』
それはそう。俺もそう思う。
とはいえ、ああやって盛り上がらないと、戦士が育たないのだろうという気もする。
命を懸けて、未来をつかみ取るためにあがく姿は、滑稽だけど、人の興味を引くのだと思う。
実際、俺が他の戦いを見学した時も、お互いにどんな考えで戦ってるのかと、気になったもんな。
「避けて当てる、正しい姿だ。それができるようにしていくのが一番安定する。装甲には限界がある。一応、手がないわけではないが……そのためにも、鑑定中の青石でコアを新調しろ」
「どのぐらいの出力になるのか……お嬢様、その時には検査手伝ってよ?」
「えっ? ええ、もちろん。でもセイヤなら……」
ずっと訓練を見学していたお嬢様。
どこかぼんやりとした感じを受け、話しかけてみたけど、やっぱり……。
「俺1人じゃだめだよ。アデルぐらい強ければわからないけどさ。俺ぐらいじゃ、変なのにだまされて終わりさ。アデル、そうだろう?」
お嬢様は、自信を持てていないように思う。
自分では戦えず、ある意味では人任せといえる状況。
周りを考えると、それがごく普通なのだけど……。
父親の生きざまを見てきたお嬢様には、それは我慢できないことのようなのだ。
それで自分にできることがないかと探し、でもやれることがあまりなくて、みたいな感じ。
「うむ。グランデールの娘よ。お前は運がいい。悪運かもしれんが。家は没落しても、こうしていい戦士と出会った。彼ならば、復興は容易だと私は確信しているぞ。そのためにも、お前が前を向き、上の連中からうまくかばってやらねばいかん」
「上から……はい!」
不思議な光景だった。
ランクは違えど、同じ戦士のはずのアデル。
でもこの姿は、まるで……ああ。
「アデルは自分をとっくに買い戻して、それでも戦ってるんだ?」
「ようやく気が付いたか。その通り。ぬるま湯にならないように、適度に闘技場を引っ掻き回すために戦う、それが俺の1つの役目だ」
通信越しに、陽気そうなアデルの声。
どこかすっきりした気持ちでそれを聞いている俺も、きっと微笑んでいる。
「来ました。行きましょう、セイヤ」
ちょうど、鑑定終了のお知らせが来たようだ。
楽しみなような、少し怖いような。
そんな気持ちを抱きながら、移動するのだった。




