MMW-026
「こんなもんか……」
『止めないのをいいことに、ずいぶんと掘ったな』
自分の腕で掘ってるわけでもないのに、操縦桿を持つ手は力が入らなくなってきた。
思うように腕が上がらなくなってきたのを区切りに、掘るのをやめる。
それまで話しかけてこなかったプレストンの声は、あきれた様子だ。
自分でも掘りすぎたかなと思うけど、仕方ないと思う。
闘技場での戦闘と違い、命の危機がないのだから。
問題は……掘ったものがいくらぐらいになるかがわからないことかな。
多くがただの岩塊っぽくて、鉱石があるってわかるのはそんなになかった。
どのぐらいよさそうなのが含まれているか、はわからなかったからだ。
「やっぱり、俺の目的に近いのは闘技場で勝ち続けることだと思うし、さ」
『確かにな。よし、無線でお嬢様たちを呼ぶぞ』
頷き、岩塊をひとまとめにしながら連絡。
ノイズ混じりだけど、すぐに返事が来た。
照明に照らされているのでわからなかったけど、結構掘ってたように思う。
「結局、持ち帰りたい原石は最初のほうの1つしか出なかったなあ……出ただけ幸運だと思うけど」
『それは間違いない。青石……サファイアだとして、防御とちょっと特殊な攻撃に適している』
そのあたりは、実際に加工できてから考えることにしよう。
念のため、盗まれないように周囲をきょろきょろ。
ほかの人は交代してるか、疲労しないようにゆっくり掘ってるっぽい。
俺みたいに1日で帰るってのはいないんだろうな、うん。
一人納得して頷いていると、見覚えのある車両がコンテナを引き連れてやってくる。
「来ましたよ、セイヤ。かなり増えましたね……コンテナ足りるかしら」
「まずフェンス向こうで簡単に見てもらって、売れそうなのだけ持って帰ろう。全部は無理なら、高そうなのだけでもね」
無線からの声は、お嬢様1人。
アデルはアデルで、自分の採掘や帰還の準備があるのだろう。
フェンス際に駐車された車のそばへ、岩塊を運んでいく。
すぐに鑑定するべく、ゴーグルのお姉さんが近づいてきた。
「ようやくお帰りかい。あんた、戦いをやめたらこっちにおいで。稼げるよ」
「考えとくよ。じゃ、お願い」
機材片手に始まる簡易な鑑定。
結果、有望なのは全部で10近い岩塊と、小さめの1つの原石となった。
これぐらいなら入りそうなので、そのままコンテナへと積み込んでいく。
詰み終わった後に移動するトラックについていくと、他にも出入りが激しい大きな建物が見えてきた。
仮設なのか、こだわりがないのか、どこか簡易的な造り。
『どうやらここがメインの倉庫らしいな。あんなに積みあがっている』
「あんなにコンテナが……もしかして、輸送先はコランダムコロニーだけじゃないのかな?」
あのコンテナ1つ1つが、それぞれの生活の糧となる。
そのことが、どこか面白く感じるのだった。
「あれ……アデル?」
お嬢様がトラックを止めた先で、見覚えのあるMMWが数機。
その足元では、これまた見覚えのある男、アデルが誰かと何かしらを話している。
俺もMMWから降り、手を振って近づくと、相手も気が付いたようだ。
「ちょうどよかった。実はな、ここで正式に採掘とするときと買取をしてもらうには、予約が必要なのだ。そうでなければ、無秩序に掘る輩であふれるからな」
「そうなんだ。でも、俺そんなことしてないけど?」
誘われるままにきて、言われるままに……ああ、なるほど。
何気に面倒見のいいアデルのことだ、先ほど話していたのも、それ関係なのだろう。
「問題ない。採掘のほうは、俺たちの一員として入れてある。買取はまとめてだと困るだろう? 個別にやってもらうように頼んだところだ。俺はあの青い場所、お前はあっちの黄色い場所だ。さあ、運び込め」
『俺の記憶より、かなり気安い感じだな……何が違ったのか。気にしても仕方ないが』
プレストンの感想を聞きながら、アデルに頭を下げ、MMWに戻る。
そうしてお嬢様の運転するトラックと共に、鑑定場所へと移動。
どんどんと運び込んでもらう。
鑑定にはしばらく時間が必要らしく、暇になることが確定した。
泊まり込みで掘る人も多いというのが、よくわかった。
「どうしましょうね、セイヤ」
「俺はお嬢様にお任せするよ。主従なんだから」
どこか楽しそうなお嬢様。
ここには、闘技場のうるさい連中はいない。
無理に言葉遣いを直す必要もない環境が、お互い解放された気分にさせるのだろうか?
でも、2人の目的のためには、戻らないといけないのだ。
「そう、ですね。では先達に聞いてみましょう。いい暇つぶしを知っていると思います」
「それいいね。よし、さっそく聞いてみよう」
お嬢様のいう先達とは、当然アデル。
彼らの成果が運び込まれているはずの青い場所へ。
すると、なぜか彼らの機体も当然のようにそこにいた。
コックピットから見える顔は、どこか楽しそうだ。
なるほど、俺たちが来ることを予想していたか?
『彼らにしてみれば、いつものことなんだろう』
(そりゃそうか……)
あっという間の再会。
俺が何か言うより早く、アデルがどこかを指さした。
「向こうに、ちょっとした広場がある。普段使われていない駐車場のような場所だ。そこで動きを見てやろう」
「本当に? 高くつくと思うんだけど……現役トップランカーの講義なんてさ」
「問題ない。あいつらもこうしてスカウトしたんだからな」
アデルが振り替える先には、少しあきれた様子の男女。
4人いるということは、後4人は臨時だったのだろうか。
彼らは彼らで、自主練をするらしい。
つまり、俺とアデルが1対1。
コロニーでやろうとしたら、とんでもないお金がとられるはずだ。
「じゃあお言葉に甘えて」
「うむ。グランデールの娘よ。お前も今後、試合でオペレータをする機会が来る。今のうちによく見ておけ」
「は、はいっ!」
そうして誘われるままに、その広間へと向かい、MMWで向き合う。
いったいどんなことをするのか……楽しみだ。
「よし、まずは歩いてみろ。ただ歩かせろ。ただし、手元は見るな」
……ちょっとだけ、変なことになりそうな気がするのだった。




