MMW-022
コロニーの外で遭遇した、謎の異形。
武装した機械だったそれは、ベテランたち曰く、はぐれらしい。
古いし、増援の心配はなさそうだ。
残骸は回収する必要があるとのことで、トラックの空きスペースに積み込む。
このぐらいは俺がやってもいいだろう。
(近くで見ると、ますます不思議な相手だ。どこかに工場があるんだろうか?)
『そのうち機会があるかもしれないな。今は、目の前に集中したほうがいい』
反論の余地のない正論。
苦笑を浮かべつつ、残骸を一番奥のほうに。
再出発となり、舗装されていない道を進む。
時折の砂埃や、どこからか吹く風。
(地下世界なのに、風?)
ある意味で、一番の疑問が浮かぶが、ひとまずは保留。
どうせ、教えてくれないだろうからだ。
プレストンも、他の誰かも。
MMWとトラックは、その後は結構な速度で移動した。
その状態で半日となれば、かなりの距離だ。
そうして見えてきたのは、山。
「戦士セイヤ。そろそろ休憩になる。停止する準備を」
「了解しました。目標はあの山ですか?」
「ああ、そうだ。詳しくは休憩時に話そう」
アデルではない同行者と、そんな通信を交わしている間に、モニターに人工物が見えてくる。
こうして移動中に休息をとるための場所か、防壁のようなものがある広間が見えてきたのだ。
指示通りに機体を止め、同じく指示通りに機体を降りて集まる。
みんな、どこか安堵した様子なのはなぜだろうか?
まだ目的地ではないと思うが……。
「セイヤ、調子はどうですか?」
「お嬢様。今のところは特に問題は。それより……」
ソフィアに問いかけをした直後、何かの駆動音。
一緒に周囲を見渡すと、何か光の膜のようなものが、地上から空へと延びていき、頭の上までやってきた。
MMWの武装と同じ感覚……ということは。
「驚かせたか。この場所には、メタルムコアを埋め込んだ防衛装置がある。簡単な侵入警報と、ジャミング程度だがな。しばらく休憩したら、一気に目的地……エス鉱山へ向かう」
今回も、声をかけてきたのはアデルだった。
暇なんだろうか?とも思ったけど、気にかけてくれてるからだろうな。
そういうアデルも、出発時よりどこかリラックスした様子だ。
「ここからはあのような襲撃は少ないのですか?」
「うむ。グランデールの娘よ、心配はもっともだ。ここ数年は、遭遇したことはない」
「その割に、護衛は豪華なような……」
お嬢様の言う通り、それだけ安全だというのに、過剰な気がする。
いや、待てよ?
護衛には過剰、だけどMMWとその操縦者がそれだけのためではないとしたら?
「ふふ。何か思いついたようだな」
「外れていたら恥ずかしいですね。鉱山で何か、採掘作業だとかそういったことをやるっていうのはどうでしょう」
返事の代わりに、何かが投げ渡される。
受け取ったそれは、食事用のシリアルバー?
「上位ランクしか買えない甘味だ。そのカンを大事にな」
時間が来たらまた来る、と告げてアデルは去っていく。
俺とお嬢様は、ぽかんとしてそれを見送ることに。
『自分で食べるか? 分けるか?』
(あー……そりゃ、ねえ?)
まだ呆けたままのお嬢様の前に、シリアルバーを半分にして差し出す。
主従というのもあるけれど、独り占めしてもおいしくはない、そう感じたのだ。
断ろうとするお嬢様の口に、怒られるかなと思いつつも手にしたものを突っ込む。
視線で抗議されるが、気にせず自分も一かじり。
「甘い……これは勝ち続けたい」
「……はい、そうですね。これはいけません」
アデルは食べ飽きているのか、好みではないのか。
あっさりと投げてきたくせに、妙においしい。
もしかしたら、甘味に慣れていないだけなのかもしれないけど。
思い思いに休息後、出発。
昼も夜もないはずの地下世界。
そこに暗闇が迫ってきたかと思うと、遠く遠くはほんのり明るくなるのが見える。
『近くのあれはもう光を取り込めないが、別の場所にあるスターレイの上には太陽が光ってるってことなんだろうな』
俺には想像つかないが、地上はそういうものらしい。
周囲を満たす暗闇の中に、俺たちと、鉱山があるだろう場所だけが灯りに光るのがわかるのだった。




