MMW-020
「もうすぐ約束の時間……あれですね」
「試合の時と同じ移動車両? あ、でもロゴが違う」
周囲にバレないようにか、いつもと変わらない輸送用の車両。
そこにMMWを操作して積み込むと、俺はそのまま、お嬢様は乗車スペースへ。
これだけ見たら、試合に行くのと何も違いがない。
今日は移動先は違い、向かった先はコロニーの隅。
大きく、空まで続いてるかのような壁がそびえたっていた。
そんな壁際で、一見すると何もない場所に車両が近づき……トンネルが開く。
トンネルを抜けた先は、いくつものMMWと機械が並ぶ戦場のような場所だった。
(自分が戦っていたのが箱庭だったってことか……今更だね)
『そうだな。広さが変わっただけで、自由のない箱庭だ』
輸送車両の運転手が何事かを伝えている間、その場に待機して周囲を見渡す。
念のためにお嬢様を守れる立ち位置で、少しでも情報収集だ。
何か作業をしていたMMWの一機が、音を立てて近づいてくる。
装備もしっかりしており、少なくともランクはいくつか上だろうと感じさせる。
「新入り、こっちだ。MMWを操作してついてこい」
「了解。お嬢様、行きましょう。あー……コックピットを開けたまま、乗りますか?」
「そうします。ここで私だけ帰るというわけにもいきません」
周囲を気にしながらの会話は、変に疲れることこの上ない。
ここまで来たら、気にする奴はほとんどいなさそうだけど……。
お嬢様もいつもの感じになってきてるし、いいかな?
ソフィアお嬢様を乗せて、ようやく初めて乗せたななどと考えつつ、MMWを立ち上げ。
待ってくれていた先輩だろうMMWについていく。
「思ったより揺れないのですね」
「揺れないように頑張ってるんだよ」
小声の感想に、小声で答える。
一応というか、頑張って特訓した成果だ。
無駄のない動きは、戦いでいろいろなところで差を生むからね。
『見ろ。知ってる顔がいるぞ』
「お嬢様、あれ……」
「え? うそ……閃光のアデル?」
そう。MMWの先導を受けて向かった先にいたのは、大きなトラック数台と、MMW数機。
その中の一機の前に立っているのは、先日であったばかりのアデルだ。
MMWを止め、お嬢様を補助しながら降りて近づく。
「先日ぶりだな。戦士セイヤよ。よく来た」
「なんだあ? アデル、新顔を知ってるのか」
不敵な笑みを浮かべ、なぜかこちらを歓迎するアデル。
こちらが返事をする前に、からかうようにそばにいた男が声を上げる。
アデルがどちらかというとほっそりした体格に対し、その男は巨漢という表現が似合う。
髪の毛は剃っているようで、全体的にまさに力自慢といった感じだ。
「ああ、そうだ。1年もしないうちにここまで駆け上がってくるかもしれない逸材さ」
「運が良かっただけですよ……」
あまり勝手に話を進められても困る。
あくまでお嬢様に買われた立場であることを示すべく、頭を下げる。
そのことに不満があるのかないのかはわからないが、アデルたちの視線が集まるのがわかる。
「なるほど、珍しいやつだ。それに、飼い主も悪くない。ククッ、お嬢ちゃん、取って食うことはしねえよ。で、連れてくのか」
「そのつもりだ。グランデールの娘よ、装備はどのように決めた」
「セイヤに一通り一任しました。その、本当なのですね。飼い主でありながら、望んで戦士を続けているというのは」
お嬢様の問いかけに、ニヤリと笑みを浮かべるアデル。
話の内容からすると、アデルは俺と違い、売られたわけではないようだ。
なのに、こうして戦士の立場にいる。
『たまーにいるのさ。物好きがな』
どうやら、そういうことらしい。
考えている間に、アデルに問われるままに装備を告げる。
満足したようで、何度もうなずくアデルの姿が印象的だった。




