MMW-201
生き物は、必要に応じて新しい能力を得る。
そんな知識が、いつの間にか頭にあった。
人形からの情報なのか、教育の中にあったのか。
あるいは、光の海で目撃したのか。
(前に見た光る植物とはまた違う感じだ)
坂に近づき、緑色に光る植物を観察する。
実際には、光が緑なのではなく、明るいことで植物の緑が目立つという状態。
『粒子を餌にして、発光している……のだろうな』
プレストンの考察に、そんなことがあり得るのかと思う。
それでは、お互いが発光してお互いに補っているかのようだ。
「なんだか、加熱したら食えそうだな」
「やっぱり? 俺もそう思うよ。ぎりぎりまで遠慮したいけど」
さすがに、まだコロニーで手に入れたやつのほうが味がしそうだ。
栄養とやらを考えた、ペーストやブロック状の食べ物だけどさ。
何かの襲撃がないかと警戒しつつの観察の間も、坂の上から降りてくるものがある。
それは……。
「風、か。エルデ、匂いはどうだ」
「普段嗅いだことのない感じね。でも、悪い気はしないわ」
「セイヤ、私も同じです……爺?」
ソフィアの疑問の声に、MMWを振り返らせ、ジルを抱っこしている爺を見る。
透明な板越しに外を見ているその姿は、驚きに染まっている。
「あ、いえ……昔、そう昔です。コンテナを採掘できたとき、中にあったのは密閉された緑色の物、恐らく植物だったのでしょう。その時に充満したものを思い出しておりました。この匂いは、あの坂に生えている植物たちのものでしょう」
「なるほど……リング、警戒よろしく」
「ん? お、おいっ」
ドーンスカイをしゃがませ、外に飛び出る。
久しぶりの生身での活動に、興奮する自分がいた。
その興奮のまま、緑の坂に歩き……そのふかふか具合に驚いた。
『驚いたな。かなりびっしりと生えているぞ』
(だよね。これなら……)
最初は、MMWはともかく車両ごとだと坂を削ってしまいそうに思った。
でも、車両と呼んでいいかわからない俺たちのなら、どうにかなりそうだ。
「よっと。かなり植物の部分が分厚いから、そのまま上ってもよさそうだよ」
「そういうことか……いざとなったらすぐ後退できるように、気をつけて進むぞ」
自分のドーンスカイは前、リングは車両に乗った状態で進むことに。
暗闇から感じる空気の動き、風で揺れる坂の植物を見ながら、ひたすらに進み、上る。
「滑るようなことはないみたいです」
「了解。なんで真下に降りなかったんだろう」
坂は、緩やかな状態で延々と続いている。
それはまるで、徒歩で降りてくることを考えているかのようだった。
「地下に逃げ込むとき、乗り物に乗れていたとは限らないってこったな」
考えたことは同じらしく、昔どういったことがここであったのか、考えてしまう。
全員が全員、無事に地下世界に逃げ込めたとは思えない。
きっと、いくらかは……やめよう。
(今はそんなことを考えている場合じゃない)
なおも進むうちに、徐々に空である岩盤が近づいてくるのを感じる。
実際、上はそんなに高くないのだ。
もちろん、すぐに天井ってわけじゃあないけども。
場所によって、かなり上までの距離で差がある。
この場所は、かなり低いようだった。
『コックピットを開けたままにしておけ。風が強くなってきた気がする』
視界の植物の揺れに、それを感じた。
言われるままにコックピットを開けてみると、匂いが濃厚になっていた。
「近いみたい」
「気をつけろよ。何かいるかもしれない」
リングに言われて警戒を新たにするけど、大きなものはいない。
小さい、とても小さいのがいる気はする。
機械虫のもとになったであろう、まさに虫とか言うやつがいるようだった。
ずっと進んでいくが、邪魔者はいない。
緑の坂道をまるで導かれるように上り続ける。
そして、ついに坂を上った先の岩盤にたどり着く。
岩盤は、なぜか穴が開いたまま。
「風があるってことは……」
「ああ。地上までつながってるってことだ」
体に緊張が満ちるのを感じつつ、さらに進むのだった。




