MMW-019
「そんなっ! 早すぎますっ!」
謎多き相手、ベルテクス。
戦士を管理する組合の長だという男が口にした話に、お嬢様が激しく反応した。
彼女にしては珍しく、怒りとも悲しみともつかない強い感情だ。
「生き残り勝ち抜けば、いつかは来ることだよ。それだけ期待してると思ってはくれないかね? それに……ん、何かあるかね、戦士君」
「セイヤっ!?」
「発言をお許しください。最前線ではなく、後方の輸送などを担当できますでしょうか」
プレストンから強制的に刻まれる記憶。
それは、コロニーの外で行われる集団戦のこと。
しかも相手は、ヒトではないらしい。
そんな場所に、まだまだMOHS1である俺たちが何ができるか?
そう考えると、多少は見えてくる。
ソフィアお嬢様が、ここまで激しく反応するのも納得だ。
「今までの情報でそこまで推測できたか。やはり、優秀なようだ」
「セイヤ、あなた……」
ここで断っても、お嬢様の立場が好転するとは思えない。
当然、俺の立場もだ。
であるならば、むしろ前のめりに参加して、条件を引き出すべきだ。
「フフ……なんなら盾にと思ったが、わかってるのならば話は早い。要は、君の無駄に壊さないところを気に入っているのだよ」
戦士たちには粗暴な輩が多くてねえとつぶやき、ベルテクスが端末を操作する。
俺たちの手元の端末も光り、そこに表示される地図でいくつかが点滅する。
「弾薬燃料、中破までの修理は無料。仕事を無事終えたら、な。あとは歩合というか、状況次第だ」
「俺、私はかまいません。あとはお嬢様が決断を。大丈夫とは言いません。帰ってきたい、そう思っています」
「……ずるいですね。そう言われてダメとは言えません。ベルテクスさん、受けます。より詳細を教えていただけますか」
ベルテクスは満足そうにうなずき、今度は俺にも座るように促してきた。
お嬢様の隣を指さされたので、ゆっくりと座り、ベルテクスと向き合う。
ベルテクスが何やら護衛に合図をすると、どこからか大きなスクリーンが持ち込まれ、映像が映る。
『中央の丸い地形は、このコロニーだな。西には険しい岩山、記憶通りだ』
(なら、プレストンの記憶がまだ使えそうだね)
ここにきて、記憶と違いましたでは話にならない。
俺の腕はまだ未熟であり、他と差をつけるためには彼の記憶が頼りなのだ。
「さて、戦士セイヤ。1つ聞いてみよう。君は不思議に思ったことはないかね? なぜ、MMWのような機械が使い捨てのように生産できるかを」
「それは確かに……それに、試合会場などもそうです。ちぐはぐ、といえばいいのでしょうか」
プレストンからの知識をうっかり口にしないよう気を付けつつ、返事を返す。
実際、知れば知るほど、どこか変なのだ。
何も知らなければ、こんな気持ちになることもなかっただろうけど。
「うむ。実はこのコランダムコロニー以外にも、多数のコロニーが存在している。そこでは同じように戦士が戦い、そして一部の戦士はコロニーの外で戦っている。人類の過去を掘り起こし、未来をつかむための戦いを」
そうしてわずかにだが語られるコロニーの建築された理由、ベルテクスらの目的。
もちろん、すべてではないのだろうけど、俺の場合はプレストンがいる。
それと照らし合わせると……うん、なるほど。
『領土的な管理対象となる土地拡張と、かつての技術を取り戻すための戦い。それが戦士を育てる目的だ。俺が知る限りでも、かつての高い技術を誇った施設がそこら中にあるらしい。その工場や設備を接収、再構築して使ってるわけだ』
ベルテクスが語る内容を、プレストンが丁寧に説明してくれる。
いくら連戦中の戦士とはいえ、こんな手法で細かいことを知ってるとは思うまい。
「なるほど。大事な仕事ですね。セイヤ、その……」
「さっき言ったとおりですよ、お嬢様。私はやらせてほしいです」
きっと、家族とその戦士が戻ってこなかったことを気にしているのだ。
どこか腰が引けるのも、無理もないと思う。
それでも、これは大きなチャンスだ。
「いい心がけだ。無事戻ったら、ランク上昇の口利きはしよう」
それからは細かい条件の説明があり、お嬢様も納得して契約となった。
準備のため、一度拠点に戻ることに。
建物を出たときには、もう外が暗くなっていた。
照明は完全に管理され、時間に合わせて自動的に調整されているだけだが……。
「大事になりましたね」
「それはやってみるまでわからないよ。でも、参加しないのはもったいないからね」
やれるだけのことはやるよ、と口にすることでようやくお嬢様も落ち着いたようだ。
そうなれば、俺たちでやることは決まっている。
ガレージに戻り、装備の確認とすぐ届くものからいくつかの装備を購入手続き。
試合では使わない、ロープの類やそういったものを選んだ。
届けに来た商会のスタッフも、まさかという表情だったから、何のためにかはわかってるようだ。
翌日は移動車両も時間にやってくるらしいので、遅刻しないようにさっさと休むことにした。




