MMW-001
「勝利の秘訣は幸運の祈り!?って、なんだかなぁ」
『神頼みはどこの世界も変わらないってことだな』
デビュー戦を勝利で飾り、控室へ戻って休息の時間。
お世辞にも綺麗とはいいがたいタブレットには、俺の戦いが映像として踊っている。
とはいえ、数ある記事の1つでしかなく、すぐに埋もれそうである。
半分以上は武装の広告なあたり、色々とズブズブなのがわかる。
『にしても、試合間の待機空間がこれは……まるで檻だな』
「実際そうなんだろうさ。カメラとかがないだけマシじゃない? 椅子に拘束はされてるけどさ」
試合後、MMWから降りた俺は、武装した男たちに連れられこの部屋に入った。
そして、椅子に縛られた状態で待つように言われたのだ。
監視がないだけ……いや、何かあったときに部屋ごと始末できるように、か?
『そりゃそうか。まだまだ初戦を勝っただけだもんなっと、来たぞ』
「セイヤ。調子はどうですか」
「見てただろ? 被弾なし、駆動部のチェックと燃料ぐらいなもんだよ」
防犯のしっかりした扉から入ってきたのは、俺の権利を買った相手であり、飼い主であるお嬢様。
名前はソフィア……苗字はなんだったかな? 確か……。
「そうですね。その……ソフィア・グランデールの名のもとに、賞賛を与えます」
「ありがたき幸せっ!」
半ばヤケになりつつ、ソフィアの声に反応する。
俺と彼女は、奴隷同然の戦士と飼い主。
究極的には命すらも、彼女の物……そういう契約だ。
飼い主なしの戦士など、MMWに乗れずに生身で戦うことになるのだから悲惨すぎる。
逆に、飼い主も自身では戦わず、俺のような戦士に戦ってもらうしかない。
そして、負ければ負けただけ追い詰められていく。
少なくとも、俺が教育係に叩き込まれた知識ではそうだ。
汗が染みて臭いヘルメットが、勝手に頭に叩き込んでくれるという点では楽だったな。
学んだ覚えのない知識が、突然湧き出てくるのは気持ち悪いけど……。
『乗っても乗ってなくても、命がけなのは変わらないがな』
(それはそうだけど、な)
頭の声に答えつつ、ソフィアの反応を待つ。
事前の教育だと、この後何かしらの報酬が支払われるはずだけど……。
「何してるの、お嬢様」
「えっと……その。恨んでないですか?」
「は? 恨んで? ああ……むしろ、あきれてるよ。普段は敬語なしでなんてのを契約に入れるなんて、前代未聞だって教育係が言ってたよ」
そうなのだ。彼女、ソフィアお嬢様は俺とは身分が違う。
護衛も従者もいないが、お貴族様なのだ。
ただまあ……彼女も崖っぷちなのは間違いなさそうだが。
戦う覚悟とは違うけど、誰かに自分の人生を託す覚悟は決まっているみたい。
「それは、その。私……グランデールは私の代で終わるところですし、最後まで付き合ってもらうのですからそのぐらいは、と。ダメでした?」
「ダメってことはないけどさ。ああ、もう! 調子狂うなあ。俺は買われた側、お嬢様は戦士の面倒を見る飼い主!」
この場所では主人が戦士をしかりつけることも多いらしく、外に音が漏れることはない。
とはいえ、会話内容を事情を知らないやつが聞いたら俺が処分されてもおかしくない。
そのぐらい、契約と立場ははっきりしてるのだ。
「セイヤは、勝ってくれるのでしょう? 最後の最後まで、私があきらめるその日まで」
椅子に縛られてると言っても、手は動く。
いざとなれば目の前の女の子1人に、暴力をふるうぐらい簡単。
だというのに、ソフィアお嬢様は俺の頬に手を触れた。
そっと撫でられる感触が、妙に温かい。
「目が、訴えていました。自分を買えと。何より、問いかけに答えてくれましたね。来てくれますかとだけ問うた私に、後悔はさせない、最後の最後まで剣であり盾であり続けると」
「それは……言ったけど(俺の中の俺が勝手にだけどな)」
あの時は、俺じゃなくて、頭の中にいる俺が勝手にしゃべったのだ。
飼い主が決まる直前に感電事故でけがを負った俺。
見るからにやけどやらがあるせいか、誰も俺に興味を示さなかった。
だというのに、お嬢様だけがなぜか強そうなやつらには目もくれず、俺のほうにやってきた。
そして、問いかけてきたと思ったら俺は答えていた。
『彼女は大成すると、知ってるからな』
(はいはい、わかってるよ)
最初は欠片も信じてなかった。
けれど、今は半々といったところか。
「それより、早く移動しない? これ、試合後の興奮した戦士が暴れないように、だろ?」
「あ、そうですね。その通りです。その、私がOKを出せばいいはずです。戻りましょう、私たちの家に」
家と、彼女は言う。
それが如何に普通ではなく、戦士としてはおかしいことは俺がよくわかっている。
家族ごっこ……とも違う。
つまりはそう、俺も普通じゃないが、彼女も普通じゃない。
けれどもそれは、今は重要じゃない。
大事なのは、生き残ること。
俺は彼女と協力し、生き残るのだ。
どこかしかに連絡をするソフィアお嬢様。
扉が開き、武装した男が2人入ってくる。
彼らは俺の拘束を解除してそのまま去っていく。
『戻ったら周囲の把握、そして鍛錬場所の確保だ。休んでる時間は少ないぞ』
(望むところだ。俺は強くなる、そして、勝ち続ける)
先導するソフィアお嬢様についていく形で、歩き出す。
育った場所以外の寝床がどんな場所か、気にしつつ。