MMW-198
リングとエルデの子供、ジル。
小さなその命が、不安定ながら歩きだしたころ。
ようやくというべきか、移動拠点は完成した。
「維持するだけでやばいね、これ」
「装甲はそこまで厚くないからなあ。岩がぶつかった程度は大丈夫だろうが」
コロニーから出るのに、車両を使う人は多い。
MMWと車両の組み合わせはよくあることだ。
でも、今回のように建物のようなものが動くのは稀だ。
何事かと見学に来た人たちの視線と注目を感じつつ、リングと2人で移動拠点を見る。
中では、ソフィアとエルデが爺の助けを借りて設定中といったところ。
一言でいえば、移動能力を備えた建物、武装付き、である。
最終的な武装はちょうど装着中だが、そのほかは完成している。
建物といっても、数件隣り合う1区画といったほど。
「車両としてのタイヤ……はなく、360度方向転換可能な球体機構?」
「下側にいくつも取り付けられているらしいな。ほれ、下を見ると球体が少し見える」
ウニバース粒子とそのエネルギーを使い、球体を動かしているらしい。
土や異物が絡まないように、移動時には本体と球体には隙間ができるとか。
『完全に地上から持ち込んだ古い技術だな』
(案外、使いどころがないからって実験も兼ねてない?)
疑問が浮かぶが、聞いても意味のない話だ。
理屈はわからなくても、使えればいい。
技術や道具なんてそんなものだからね……うん。
「セイヤ、一通り終わりましたよ。後部のコンテナ状の部分は、MMWの格納庫兼整備設備です。簡易的な修理も行えますよ」
「資材を用意したらだけどね。道中、採掘して素材にでもしろってことかしら」
驚いたことに、全体の半分以上はMMWとその関連設備らしい。
実際、MMWの使えない遠征なんて、どうしようもないのと同じだけどさ。
「居住部分も問題ないようですな。広々とは言いませんが、移動中も気にせずに済むかと」
爺がそういうのなら、そうなのだろう。
俺は狭くても平気だろうけど、プライバシーとか言う話もあるし、ジルが耐えられるかだ。
そう、今回の遠征は俺たちだけだ。
ある程度までは他の戦士たちも、別の仕事ついでに一緒だけど遠征自体は俺たちだけ。
それは、俺たちのわがままでもあるし、仕事としての性質上の問題でもある。
「短くても半年、それが期限だからね。多分、長い旅になる」
状況だけなら、コロニーから出ていくのと同じような状態。
けれども、戻ってくるつもりだ。
少なくとも、俺はね。
「武装が届いて、装着でき次第、出発。それでいいよね」
俺の宣言に、みんな頷いてくれた。
ベルテクスや商会、アデルら知り合いに連絡をし、準備を進める。
それからの時間はあっという間で、出発の日が来た。
武装も備え付けられ、そう簡単には負けない拠点になったはずだ。
「ランクを上げ切ってから行くものかと思っていたが……自由ではあるな。油断せず、躊躇せず、敵と困難は打ち砕き給え」
「アデルに言われると、なんだか気分がいいね」
遠慮なしの戦いだと、たぶん俺より強いだろうアデルに、必要であれば力を行使しろと言われる。
油断のような躊躇が、ソフィアたちを危険にさらすという忠告だ。
もっともなことだと思うので、しっかりと頷きを返す。
「空振りのほうがコロニーとしてはいいのだが……これは代表からの質問状……もし、人間を見つけたときの物だ」
人間を、とは言っているが、地上のということだろう。
ベルテクスから、記憶媒体を受け取り、ソフィアに預ける。
出発から半年、それまでに目標となることが達成できなければ一度戻ってくること。
それがこの遠征の一番の条件。
空振りなら、俺たちという手札がそのまま戻ってくるわけだから、納得である。
「じゃ、行ってくる」
短く告げ、コロニーから出発する。
向かう先は、希望の穴のさらに向こう側。
どうやら、希望の穴自体が地下に来た時のルートらしい場所だった。




