MMW-018
ランダムマッチングでの試合を再びこなした後日。
俺とお嬢様は、試合会場のそばにある場所へと呼び出しを受けていた。
「セイヤ、中ではその……あまり気持ちよくない態度を取ると思います」
「気にしないで。普段の関係のほうが、おかしいんだよ。んんっ……行きましょう、お嬢様」
小声でささやくお嬢様に、俺も小声で返す。
本人同士だけの場なら、いろいろと自由。
けれど、外では俺は買われた側なのだから、気を付けないといけない。
プレストンの記憶も借りつつ、それっぽいふるまいを意識して移動する。
まだ武装を常時する許可をもらえるランクではないから、いざというときは生身だ。
『もっとも、そういうことにはなかなかならないだろうがな。わからないだろうが、この通りはカメラが多いんだ』
(やっぱり? なんかこう、チリってする気はするんだよね)
正確な場所はわからないけれど、何か感じるのは間違いない。
なぜなのかはわからないし、プレストンも答えてはくれなかった。
そうこうしてるうちに、目標である建物が見えてきた。
遠くからでもわかる高さのある建物で、入り口もなんだか物々しい。
「なんて書いてあるんだろう。闘技……戦士、管理組合?」
「確か、セイヤのような戦士を管理している場所」
お嬢様も始めてくるのか、どこか不思議そうに見ている。
こうしていても仕方がないので、門番のように立っている警備員に近づき、頭を下げる。
「呼び出しを受けてきました。MOHS1、セイヤです」
「飼い主のソフィア・グランデール。確認を」
無口な警備員が端末を操作するのを見守っていると、すぐに反応があった。
ぷしゅっと音を立て、大きな扉が左右に動いたのだ。
(なんだか入るのが怖いな)
『大丈夫だろう、たぶんな』
適当な声に、内心ため息をつきつつお嬢様を守るように先に立ち、入る。
横を通るときに、何か紙を渡されたが、その間も警備員は無言だった。
って……この人たち。
「気が付きましたか?」
「はい、お嬢様。あの警備員、人間ではなかったです」
どこにマイクがあるかわからないので、口調はそれっぽく。
警備員から渡された紙に書かれた場所へと建物を進む。
5Fにある部屋のようで、階段かと思えば、エレベーターがあった。
操作はお嬢様に任せ、一応警護のような立ち位置で乗り込む。
「静かですね」
「ええ、こんな場所とは……」
人がいる気配がしない。
それに、部屋もカギがかかってるように感じる。
この建物は一体……何を管理していると?
たどり着いた先にあるプレートには、確かに紙に書かれた部屋番号が。
お嬢様に教わりながら、ノック。
中から人間の声が返ってきた。
「ようこそ、最近話題の戦士と飼い主よ」
部屋にはいくつものデスクに、壁際には多数の棚。
そんなデスクの一番奥に、1人のおそらく男性が座っていた。
左右には、外で出会った警備よりもあからさまに機械を感じる存在が4人。
おそらくといった理由は、顔の右半分を仮面のようなもので覆っていたからだ。
左側も、目は義眼に見える。
「武装チェック。グリーン。凶器は所持していません」
「ふむ。隠し持つぐらいはするかと思ったが、まあいい。座りたまえ」
相手が誰なのかわからないが、相当にお偉いさんだろう。
となると、俺まで座るのは明らかに間違いだ。
お嬢様がゆっくり座るのを見てから、その横に姿勢を正して立つ。
どうやら正解だったようで、男は満足そうにうなずいた。
「しつけはちゃんとできているようだ。さて、時間ももったいない。本題に入ろう」
その言葉を合図に、護衛であろう1人が端末を俺たちに1つずつ渡してきた。
電源を入れ、画面を表示させるとそこにあったのは、地図?
『はっ。思ったより早かったな。やはり、試合を多くしたのが正解だったか』
よくわからない興奮したプレストンの声。
でも、悪いことではなさそうだ。
「これは? それと、お名前を伺っても?」
「おっと、そうだったな。私はベルテクス。このコロニーの、戦士たちを管理する組合の……まあ、トップだ。デビュー以来、活躍著しい君たちに新たな契約、活躍の場を提案したい」
白髪交じりの、狩人のような気配を感じる男、ベルテクス。
その口からはこちらが断るとは一切考えていない、どこか強気で傲慢な空気を感じる言葉が飛び出すのだった。




