MMW-187
「あっさりと許可が出て、しかも支援物資までもらえた……単純に考えていいのかしらね?」
「裏つってもよ、変な話じゃないだろうぜ。自分たちも噛ませろってことだろ」
ソフィアの両親との再会もそこそこに、未探索領域への許可はすぐに出た。
しかも、多少なりともと物資まで分けてもらえた。
都合が良すぎると、俺もモニター越しにエルデへと頷きを返す。
ただ、リングの言うように単純な話かもしれない。
なにせ、試合をやるより先に探索を勧められたのだから。
俺がやり遂げたこと、正確には俺が関わって話が大きく動いたことが多いのだろうか。
今回も、外れということはないだろうという確信がなぜかある。
コロニー側も、それに乗ろうとしているということだろうか。
「それにしたって、本当によくこんなあてずっぽうの話に許可が出ましたね」
ソフィアの言うように、今回の話はかなり大雑把であてずっぽうだ。
なにせ、探索の記録がないほうへ遠征に行く、ただそれだけなのだから。
『事前に、人形たちから推測データはもらっているだろう?』
(そりゃそうだけど、あまり言えない情報だよ)
これまでの人形との語らい、相談により、様々な情報を俺は得ている。
その中には、人類がこの地下世界にどこから逃げ込んだかというものもある。
けれど、時間は世界を変えていく。
地形も、この地下世界ですら時間によって姿を変えているようなのだ。
実際、希望の穴の人形たちも待機しながらの活動中でもそれを目撃している。
一番驚きなのは……空の穴がふさがっただろうということだ。
「それだけ、停滞をどうにかしたいって思ってる人が増えたんだよ、たぶん」
そう答えつつ、薄暗い地下世界の先を見る。
岩や作業中のような小山が広がる、厳しい景色。
地上の記録と比べ、生き物なんてまともにいない世界。
それでも、いないように見える世界とわかったのは収穫だ。
「あの生き物、地上のだと思う?」
コロニーから旅立って数日。
未探索領域を移動中の俺たちが遭遇したのは、スターレイの下にある小さな緑。
いつぞや見た緑と、小さな泉。
偶然か、それ以外の要因があるのか。
家数件程度の広さの、緑があった。
植物とかいうやつと、そこに生きる小さな小さな動くもの。
俺だけは、一目見てそれが何かわかった。
昆虫、機械虫のモデルとなった生き物だ。
残念なことに、その緑、林と呼ぶにも小さすぎるそこからは出てこられないようだ。
「わからん。が、あれ以上増えることもなさそうだ」
リングの言うように、昆虫たちは狭い世界で完結しているように見えた。
外に出てくる様子は、全くなかったのだ。
長い時間をかけて、偶然コロニーにたどり着くのがいてもおかしくはないはず。
理由はおそらく、ウニバース粒子だ。
昆虫たちは、本能的に外に出ると寂しい世界だとわかっているのだ。
「あれだけでも結構な発見だと思うけど、役に立つ発見じゃないからね」
ジルぐらいだと、観察するにはちょうどいいかもしれないけども。
俺やリングぐらいになると、食えるかが例えば重要。
さすがに、あれを食べる気にはならないね。
「そういえばセイヤ、目的地はわかるのですか?」
「んー、山にぶつかるまではなんとも。斜めになってる、崩れてるのが多い山ってのは決めてるけどね」
今回、俺たちが向かうのは山、崖とも呼べる部分だ。
人形たちからもらったデータを色々と見ていると、気が付くのだ。
地下世界に逃げてきたときの穴は埋まったが、形跡は見つかるだろう、と。
この前の地揺れがレアであったように、景色が変わると言ってもかなりの長期な間隔でだ。
ふさがった穴も、見分けがつかないほどではないだろうということだった。
用意した物資、支援を受けての物資。
それらを考えて、ひとまずはあと1週間は進めるはず。
そう考え、相談をしつつ進む。
もうそろそろ戻ることを考えないとという考えがよぎるころ。
念のために切り替えておいた視界に、粒子の妙な動きが見えた。
「動いてる……」
わずかにだが光る何かが、空の岩盤から山を滑り落ちてくるのを見つけるのだった。




