MMW-183
「ジルの様子がおかしい?」
「ええ、そうなんです。実は……」
ベルテクスたちとの話を終え、戻ってきた俺にソフィアが告げてきたこと。
それは、ジルの様子が普通ではないということだった。
例えばそう、何もない所を見つめて、はしゃぐのだという。
俺は赤ちゃんだった記憶はないし、教育でも、光の海でも特に覚えはない。
けど、普通じゃないだろうなってのはわかる。
「たまたま、近くの経験者に聞いた限りでは、たまにあることなんだそうです」
「ふーん。じゃあそういうことじゃ?……ってのは簡単だけど、違うと思うんだ?」
「はい。明確に何かが見えている動きをするんですよね」
そう言ってソフィアが見るのは、エルデがジルを寝かしつけにいっている部屋の方向。
リングも、2人が気になって部屋にいっているようだ。
(なんだろうね? 子供にしか見えないなんてある?)
『どうだろうな。昔、地上では幽霊、死んでしまった人の魂なんかが残っているみたいな考えはあったそうだが』
さらりと、プレストンが怖いことを言う。
幽霊、人の残滓……少し違うか、心残り?のようなものだろうか。
伝わってくるイメージに、そんなことを思う。
けれど、今回のジルはそうではないだろうなとも。
「気になるから様子だけ見に行こうかな」
そうしてください、と言われ、さっそくとばかりに移動。
起こさないように静かに向かった先から、元気な声が聞こえてくる。
どうやら、まだまだ眠ることはなさそうだ。
ノックをしてから、扉をそっと開ける。
「おう、戻ったか」
「ただいま。元気そうだね」
ベッドに寝転がるジル、そのそばに座るエルデ。
椅子に座り、2人を見るリング。
幸せそうだなと感じる光景が、そこにはあった。
「ふふっ、セイヤが気になるのかしら」
ジルが俺のほうを向いて、何事かをつぶやいている。
まだまだ、しゃべることはできないだろうけど……目は見えている様子。
両手を使い、はしゃぐ姿はかわいらしい……んん?
(何か、違う気がする。ただはしゃいでいるんじゃなく……)
ピンときた。
迷わず、ゆっくりとだけどウニバース粒子を動かすことを意識する。
メタルムコアは近くにないし、MMWにも乗っていない。
けれど、最近の俺は粒子の扱い、干渉に熟練してきた実感がある。
生身の状態でも、視界を切り替えて粒子の動きを見ることだってできる。
そう、俺は見えるのだ。
『なるほど。天然でその視界を持っていたって、不思議じゃないってことか』
プレストンの指摘に頷き、右手の人差し指を立て、力を意識する。
そうっと、本当にわずかに粒子を飛ばすように流れを変える。
すると、ジルは見事にその粒子の動きをわかっているように視線も、顔の向きも変えていく。
「セイヤ?」
「何を……おい、まさか」
リングは何が起きているか、気づいたようだった。
頷き、指からの粒子を止める。
「まさかだね。ジル、強い粒子の流れが見えてるよ。MMWとかで経験を積むことで得られる、たまーにいるらしい目を、もう持ってる」
だからって何か悪いことが起きるってわけじゃない。
とはいえ、見えすぎるのも問題だ。
どのぐらい見えてるかによるけど、しっかり見えていると疲れると思う。
実際問題、俺ですら必要がなくなったら視界を戻してるぐらいなのだから。
「そんな……セイヤはどうやって見えないようにしているのかしら?」
「説明が難しいな。俺は見えるようになった側だからね……でも、やってみるよ」
自分じゃわからないけど、同じ見えるっぽいジルからすると、わかることがあるかも。
興味深そうに俺を見るジルの前に立ち、落とさないように気を付けて持ち上げる。
目を見つめ、視界を見える状態と見えない状態に切り替えてみた。
違いがわかるようで、ジルの顔が驚きに変わっていく。
何度か繰り返し、これは遊びだよと思わせることを狙う。
すると……。
「うん。成功かな?」
見た目には変わらないけど、ジルの雰囲気というか、たぶん俺とか見える人だけがわかる違いが出てきた。
しゃべることはできないけど、見え続けてるのは結構ストレスだった様子。
明らかにほっとした感じで、今にも寝そうな状態になった。
「ほんと……静かになったわ。ありがとう」
「俺からも礼を言うぜ」
「気にしないでよ。仲間じゃん? 俺は行くから」
いい戦士になりそう。
その言葉は飲み込んで、部屋を出る。
ジルが大きくなるころには、平和になっているといいのだけど……。
『頑張れば、なんとかなるさ』
プレストンの慰めを聞きながら、ソフィアのもとへと向かうのだった。




