MMW-179
『揺れのわりに、無事というべきか、やはりというべきか』
頭の中の声には答えず、周囲を見渡す。
地下ではまずないはずの地揺れ、地震。
かなり長い揺れ、その力を考えると被害がないわけがない。
実際、コロニーの防壁にはいくつも煙が上がっており、何か所かは崩れているようだった。
火山の噴火の時と比べて、上から降ってきたり、吹き出てこないだけマシだろうか?
「これ以上奥に行くのはやめておこうかな」
コロニーの中は、あわただしい様子だ。
あちこちに人が走り回り、救助のためだろう車両も行きかっている。
MMWは足元に気を付けながら、重機としての役目を果たすべく移動中といったところ。
普段なら、出発する人、帰ってきた人でにぎわう広場も、少し様子が違う。
そんなところに、機械獣を持ち込まなくてよかったと思う。
1機はともかく、40機ともなるとね。
ドーンスカイのコックピットを開き、大きく息を吸う。
やっぱり、少し空気が違う。
埃っぽいというか、綺麗とは言えない感じ。
「セイヤ!」
そんな俺のもとに届く、ドーンスカイがとらえた声。
モニターを操作して見れば、助手席から体を乗り出して手を振るソフィアがいた。
危ないことはできればしてほしくはないのだが……うん。
機体から出て、降りるころには彼女の乗った車両がすぐそばに。
どうやら、爺が運転をしているようで、エルデもジルを抱えて外に出てくる。
「ただいま。リングたちはもうすぐだと思うよ」
「みんな無事そうで何よりです。そちらに地揺れの被害は?」
「特にないかな。こっちは……微妙な感じだね」
下に降りると見えてくるものもある。
あちこちの地面が歪んでいるのだ。
建物も被害が出ているし、物はたくさん崩れている。
「私たちは、ちょうどガレージで整理をしていて……検査用の機材が揺れを感知したから助かったわ」
ガレージはMMW関連の事故に備えて、他の建物より丈夫なのもよかったのだろう。
そこに俺からの連絡が届き、急いで出てきたという感じらしい。
赤ちゃんのジルは、こんな状況なのに泣いていない。
周囲をきょろきょろと見ているから、元気はありそうだ。
名前を呼ぶと、こちらを向くのが、どこか面白い。
「状況の把握にも時間がかかりそうですね。何が原因なんでしょう」
その問いに、答えられる人間はこの場にはいなさそうである。
地上と違い、揺れる要素が少ないからね。
『呼び出しだ。ベルテクスだな』
(今? 俺に何かできるもんかな? それに、リングたちは……来たかな?)
届いた連絡に素早く目を通し、どうしたものかというところで入り口に車両とMMW。
感じる気配に、安堵の息を吐く。
手を振り、こちらに来てもらう。
すぐに降りてきたリングに、呼び出しのことを素早く伝えた。
「わかった。こっちは俺たちに任せておけ。セイヤはアデルと一緒にいってくれ」
「そうだな、そのほうが良いだろう。では先に行くぞ」
ありがたい申し出に乗る形で、俺もソフィアたちに告げてすぐにドーンスカイに乗り込む。
地面は行きかう人々やMMWなんかで混雑しているので、2人して飛ぶ。
本当は良くないんだろうけど、速いからね。
リングたちが、持ち帰ったあれこれを下すのを遠くに見つつ、呼び出された場所へ。
その場所は……コロニーの代表者、トップが眠っているという建物だ。
「戦士セイヤ、あの広い場所で降りるとしよう。どうやら厄介そうな気配だ」
「だね。地揺れに関係がありそうで、面倒な予感」
着地した俺たち2機を、建物から出てきたベルテクスと護衛が出迎える。
その表情は、硬い。
「用件は?」
「トップが眠る機材が不調だ。このままでは、1年以内に目覚めてしまう。そうなれば……」
このコロニーに限らず、まだ生きているトップである指導者は、眠り続けている。
稀に起きるそうだが、すぐに眠るようになっているらしい。
寿命、そして地下世界に順応できていないからだという。
「それは問題だが、何をすればいいのだ?」
「修理資材が必要だ。2人には、他の戦士と協力してこれと似たような機材を探してほしい」
ベルテクスに案内されるままに入った建物。
厳重な警備、いくつもの扉をくぐった先。
そこで見せられたのは……ああ、偶然もいいところだ。
何とも言えない感情を抱えて見つめる先にあるのは、見覚えのある光る筒状の機材。
「? どうした?」
「ううん。アデル、これどう思う?」
「あの場所に、人間がいたことがこれで補強されたな」
訳が分からないという様子のベルテクスに、俺たちは説明する。
機械虫の拠点にあった、特殊なメタルムコアのことを。




