MMW-017
「換気もいい感じ。匂いがこもらないな。なんならここで寝てもいいや」
「だめですよ、自分の部屋があるんですからね」
整備をしようと、ガレージに来た俺。
作業の合間にMMWを見上げつぶやくと、隣からお嬢様の声。
見れば、いつの間にか作業服に着替えた彼女がいた。
「あれ、作業服も買ったんだ? よくあったね、そのサイズ」
「少し、裾上げしてもらいました。主人が着ることは珍しいとは言われましたよ」
それは、そうだ。
ほぼすべての買主、主人はあくまで戦わせる側。
作業着を着るのは、機械いじりが好きな変わり者ぐらいだろう。
『知識不足は間違いないが、そのうち専門顔負けのアイデアを出してくると思うぞ』
(そうなんだ? ふーん。まあ、けががないように見ておかないと)
さすがに危険のある作業はやらせられない。
カタログでの確認と、現物の検品ぐらいだろうか?
「コアのあとは、細かい武装をそろえるのはなぜですか?」
「情報のごまかし、かな? 俺がどんな戦い方をするか、読ませないように。訓練は大変だけど、使える武器が多いほうがいいからね。試合中、相手の武器を奪って使ってもいいってわかったし」
そうなのだ。ルールの理解も進むことで、戦い方にバリエーションが出たと思う。
おそらく、初めに全部知らせても覚えられないからだと思う。
結果として、ランクが上がるごとに見ごたえのある試合が増えていくらしい。
「維持費や作業の手間が心配でしたけど、増えた施設なら問題ないですね。あとは、試合間隔でしょうか」
「うん。俺はけががない限り毎日でもいいんだけど、一度組んだ試合はキャンセルできなくて、出られないと不戦敗扱いらしいからね。どうしたものか……」
ちらっと聞いた話では、週1回でも多いぐらいだという。
最近の俺たちは、5日から3日に1試合、とその意味では多めだ。
「とにかく経験を積んで、力を高めたいんだよね。だからこそのランダムマッチングなんだけど」
ここでの戦いには、いくつか種類がある。
管理組織に任せるものと、指名しあうもの。
先日のように企画提案としての形、そしてランダムマッチング。
ランダムマッチングは申し込みだけですむ。
対戦可能な申し込んだ戦士の中から、ランダムで選ばれる形だ。
今度、毎日の申し込みは問題があるのか、聞いておこう。
「上位ランカーが少ないことを考えると、初心者狩りとか言われそうですが、私たちもまだ駆け出しですもんね」
「そうそう。何か言われるまではしっかり利用していかないと」
この前の上位ランクを交えた戦いに生き残り、俺のランクは結構上がっているはず。
具体的なランクは、他の戦士との兼ね合いですぐ変化するけど……。
たぶん、MOHS1の中では半分より上には上がってると思う。
「ここまで、近接を中心にしてたから、ちょっと変えていく予定」
「そこはセイヤの戦いやすいように。どんな感じですか? ふむふむ」
しゃべりながら、試合に向けた編成をひとまず完了する。
左肩にはけん制用の安い無誘導ロケット、腰の後ろにつけれる実体弾のライフル。
ショーめいた試合で目立つための小銃、腕ほどの長さの実体剣。
そして、代名詞ともいえる至近距離用のウォーピック、ただし2連タイプ。
右肩には廃材を利用したシールドに、機体各所にも補強を入れている。
うっかりすると重量や出力が問題になる装備だけど、今のコアなら余裕だ。
「どの距離でも戦えるようにってことですか。いいんじゃないでしょうか。その分、セイヤの腕が重要になる気がしますけど」
「そりゃね。それも狙いだよ。駆け出しが慌てて安定を求めたって思わせたら有利だなって感じ」
言いながら、別の理由は口にしない。
妙に、この編成がしっくりくるということは。
たぶん、プレストン……つまりは俺のありえた未来の1つで、なじみだったんだと思う。
彼が、頭の中で妙に懐かしむようにつぶやいていたしな。
『使ってみればわかるさ』
(そうしておく。さてっと)
「じゃ、オイル洗浄の開始と監視してみる? マニュアル通りにやればいいからさ」
「え? は、はい!」
本当はこんなやり取りを見られたら、二人とも評判が落ちる。
一般的な主従じゃないからね……今更か。
必死な表情で、機械を操作し、モニターを見つめるソフィアお嬢様。
そのすぐそばで、他の戦士たちの情報を端末で読み進める俺。
2人だけの、静かな時間が過ぎていく。




