MMW-177
(もう見えないな……)
機械虫の巣からの帰り道。
輝きを失っているからか、そんなに離れていないのに、もうスターレイは見えない。
見えるのは、周囲の岩盤とともに茶色く埋もれた光景だけ。
『また太陽が上に来ても、光ることはなさそうだったな』
プレストンの言うように、ただ上に光がないだけではなく、かなり濁っていた。
あれでは、真上に来ていてもここまで光が届くことはない、そう思わせる状態だ。
「アデル、あのスターレイを砕いたら地上に出られると思う?」
「わからない……が、単純に砕けたとしても、どれだけかかることか。地上までの距離を考えるとな」
軽い感じで無線で問えば、そんな言葉が返ってくる。
やはり、アデルも考えてはいたんだろう。
脆く、容易に砕けそうなあの結晶の柱、その上の先端部への思いは似ている。
ここから地上までは、数キロとも数十キロとも言われている。
今も地上の空は青いのか、それとも……。
「そんなことよりよ。あいつらにあれが見つかるほうがまずくないか?」
「それはそうだけど、どうしようもないよ?」
リングが心配しているのは、以前襲ってきた別の派閥の人間たちのこと。
彼らと遭遇した場所とは、全く違う地域ではある。
けれど、彼らの影響範囲がどのぐらいなのか、それもわからない。
何かいい方法があればいいのだが。
「確かに。一度戻って、相談してみるぐらいか……」
人形たちなら、いいアイデアを提供してくれるかもしれない。
さすがのベルテクスたちも、地上へ向けてスターレイを砕け、とは言わない……と思う。
代り映えしない荒地の地下を進みつつ、そんな会話を続ける。
と、機械獣の一部がその向きを変える。
「何か見つけたみたい。あれは……機械虫?」
「だな。動いてねえ。俺たちが撃破したやつじゃなさそうだな。というか、攻撃を受けた形跡が無い」
「ではあの巣から出てきた一団ということだろうな。逆に、この距離まで指示個体の命令は有効だったということだ」
念のために武器を構えさせたまま、MMWを近づける。
確かに、巣で倒したのと似た個体だった。
力尽きたと言わんばかりの状態が、少し不気味だ。
アデルは、指示個体の命令が止まったからだというけど……それはそれで少し気になる。
「それは合ってると思うけど、指示個体が無事な時、ここどころじゃない場所でも機械虫は動いてた。命令を一度受けたら遠くでも動けたって思ってたけど……指示個体が止まったら、止まるってことはだよ」
一息にそこまで言って、モニター越しに機械虫を見る。
つまり、思ってる以上の遠距離で、指示個体と末端の機械虫は情報をやり取りする手段があるってことだ。
そのことを口にすると、アデルたちみんなの雰囲気が変わる。
俺たちですら、お互いの機体で発する無線以外の通信は、なかなか難しいのだ。
途中に岩山など、いろんな邪魔者があるからだ。
「確か指示個体の残骸は……うむ。改めて機械虫のこの無事な奴も持ち帰るとしよう」
「うまく解析できたら、便利そうだよね」
どういう理屈かはわからないけど、遠距離通信の秘密がわかるといい。
そう願いつつ、荷物を増やすことを機械獣に謝って、乗せる。
機械獣が文句を言うことはないけど、なんとなくね。
『そうでもないと思うぞ。どうも一部の個体というか、ずっとついてきてた1機は、まるで生きた動物のようだ』
プレストンの言うのは、ついてきている40機の機械獣のうちの1機のこと。
野良のようにいた機械獣が、どうしてもついてきてしまっていた。
結局、用意された40機の中から1機はお留守番にし、その1機をその個体で埋めたのだ。
(そんなもんかなあ? 確かにこう、いつも前に来て何か動いてるけど)
見た目は、ほとんど違いがない機械獣。
装備以外で見比べるのは難しい。
その1機を除けば、となるのだが。
『機械虫も、こうして本来の虫らしい何かを獲得した結果、暴走したのかもな』
移動を再開しながらの時間で、プレストンはそんなことを頭の中でつぶやくのだった。




