MMW-175
リングたちと潜る機械虫の拠点。
見た目は、どうにか人間の暮らせそうな様式の建物だけど、サイズは大きく異なる。
まるで、巨人が暮らすかのような大きさなのだ。
椅子1つとっても、そのままではコンテナに登るかのような大きさばかり。
テーブルともなれば、家の屋根のようだった。
しかし、それらは珍しいものだ。
多くはただの棚であったり、何もない部屋も多かった。
(外から見たときより、中が普通……大きさ以外)
『これで、人間が関与してるのは間違いないな。機械虫だけなら、こんな造りにする必要がない』
無言でうなずきつつ、まだ動いている機械虫がいないか、警戒して進む。
女王個体を倒して、動きを止めた機械虫たち。
でも、全部がそうかなんて俺たちにはわからない。
「特に獣たちの反応は無いな」
「うん。何してるんだろ。匂いを嗅いでるのかな?」
何体かの機械獣が、部屋の隅なんかで不思議な仕草をしている。
それがどういう意味の行動か、なぜか伝わってきた気がした。
機械獣たちもウニバース粒子を使い、あれこれするからかもしれない。
(ん? 機械獣に感情があるってこと?)
自分で考えたことに、疑問を浮かべたときだった。
「警戒!」
緊張に満ちたリングの声。
俺もまた、ドーンスカイを物音がした方向に向けた。
何か動くものがいたか、そう思ったけどがれきが落ちた音だった。
機械獣があちこち爪でつついてるせいで、落っこちてきたようだ。
「脅かせんなよ……うん? 壁の向こう側に空間があるな」
がれきは壁が崩れたもので、その向こうには暗い空間が広がっているようだった。
左右を2機で挟みつつ、正面に機械獣を数体待機。
ゆっくりと壁の穴を崩していく。
罠はなく、機械虫もいないようで、広い空間が広がっている。
試しに照明弾を打ち込むと、下に向けて空間があるのがわかった。
「隠し通路、か?」
「そんな感じだね。行こう」
機械獣を前にある程度進ませ、その後ろに俺たち、さらに後ろに残りの機械獣。
そんな隊列で奥へ奥へと進む。
そうして、しばらく進んだ先に光が見えてくる。
ある意味、見覚えのある光だ。
「コア、だろうな」
「うん。間違いないと思う。けど……大きいよ」
目当てとなるメタルムコアは、無事見つかった。
周囲の機械は、その制御装置ということだと思う。
メタルムコアはまだ力を帯びており、ずっと稼働中だったのだろうと思わせる。
それだけなら、普通の光景なんだけど……。
『こいつは……人、か? 覚えがないな。この大きさは異常だが』
「人……ううん。巨人、かな?」
「地上にこんなのがいたら、もっと記録が残ってると思うぜ」
確かに、その通りだ。
それこそ、コロニーの指導者たちが1人でも巨人サイズだったら、その話は出てくるはず。
2機のMMWと、機械獣。
そんな機械の瞳が見つめる先には、縦長のメタルムコア。
中の様子がわかるようになっている、特別なもの。
球体が一番効率が良いと言われている中、縦長のコアとは……。
その中には、人の姿。
しかし、サイズがおかしい。
ドーンスカイを超えるサイズの、巨人の躯と呼ぶべきものがあった。
「コアの中って、石と配線だけだよね?」
「俺の知ってる限りはな。だがこいつはそうじゃねえ。これで完成してるんだ」
いうなれば、異物があるのが正常、そんなコア。
そんなことが……あり得るのだろうか?
人にとってはあり得ないだろう光景。
(でも、機械虫としては問題が問題じゃないとしたら?)
動きそうにない、干からびた巨人の躯。
それが、コア内部を満たす何かの液体の中に浮いている。
中にこんなものがある利点は何か、そこが重要だ。
ちらりと、光に照らされる機械獣を見る。
彼らは、自分の意思といったものがないからこそ出力が低い。
それは、人間がメタルムコアを使うときとは大きく違うものだ。
このコアだって、人間が管理しないとそんな出力は出ない……はず。
けれど、人間はいなかった……目の前の巨人を除いて。
「メタルムコアの力を引き出すには、人間とかを使うのが1番。だから、かな? 人間を再現しようとした。余分な感情はカットして」
「可能性はあるな。効率的だが、気分は悪いな」
この巨人も、もとは普通の人間だったのかもしれない。
それを機械虫が、無理やり大きく再生した。
そう考えると、すっきりするのだ。
人間ではないナニカで代用、そういうことだ。
「眠らせてあげようか」
「だな」
このまま稼働させたままというのがどうにも不憫で、俺は制御装置を確認し、メタルムコアを停止させるのだった。
そうして、アデルたちを呼んだ後、コアの中身を外に運び出し、埋める。
なんとなく、コアの中にそのままというのが、嫌だったのだ。
少し、施設全体の雰囲気が落ち着いたような気がした俺だった。




