MMW-174
「なんだ……これ」
「頭をつぶしたからか?」
外への援護に向かった俺たちが見たのは、あちこちで動きを止めた機械虫の姿だった。
不思議なことに、ひっくり返って停止しているやつらばかりだ。
そのまま倒れてるやつは、攻撃を受けた形跡がある。
「中は終わったようだな。少し前まで、あまりの数にどうしたものかという状態だったが」
「みんなは無事? っぽいね。機械獣は……少し痛んでるかな?」
近づいてきたアデルの機体に目立った損傷は見受けられない。
弾切れが心配だった、なんて声も出てくるほどだ。
やはり、最近の機械虫は戦闘向きではないのだろう。
以前のはわからないが、今回遭遇した相手は、その意味では怖くなかった。
女王?を除き、攻撃手段がかみつきぐらいしかなさそうな姿だったからな。
『全体の中で、どういう割合で生産するかの前提が変わってきたんだろう。それも指示個体を止めたことで、全部止まったわけだが』
(あれ1匹だけなのかな? 気になるよね)
中で出会った相手のことを話しつつ、お互いに被害状況を確認する。
誰も脱落していないのは、とてもいいことだと思う。
「他に指示個体がいないか、しばらく探索したほうが良いと思うんだよね」
「そうだな……そうだ。人間の痕跡はあったか?」
言われ、中の光景を思い出すが……いまいちわからない。
外の建物もそうだけど、チグハグな感じで、全くないとは言えないけど、あるとも言えない。
肝心の人間自体は見つかっていないからだと思う。
「微妙な感じ。何かしらの指示があったのか、機械虫なりにそれらを参考にしたのか……でも、おかしいよね」
機械虫は人間に敵対する道を選んだはずなのだから、人間がいることはおかしい。
少なくとも、人間が指示を出したということはないように感じる。
そうなると、もしここに人間の痕跡があったとしたら……。
「利用されてるやつはいたかもしれないってところか。いたとしても最初だけだろうな。食い物もなさそうだ」
リングの言うように、周囲の建物やらなんやらを見ても、人間が暮らせる状態にはなっていない。
そもそも、あんなふうに機械虫がいたら無理だろうけどね。
地下に逃げ込んだ人間の集団が、機械虫に追いつかれ……みたいな感じだろうか?
「よし、手分けして探索に出よう。3時間後にはここに戻ってくるという形でどうだ」
「ん、了解。そうしよう。何か持ち帰られるものが見つかるといいけど」
アデルの提案を採用し、俺とリングと機械獣半分、アデルたちと機械獣半分で探索に。
俺たちは中、アデルたちは外を中心にだ。
どこから入ろうかとうろついていて、気が付く。
人間サイズの扉が存在しないことに。
「建物もみんな、大きくない?」
「ああ、でかいな。全部あいつらが通れるぐらいだ。こいつは……人間の関与がなさそうだな」
少なくとも、見える範囲では人間は暮らしていなかっただろうとわかる光景。
全く動かない機械虫の死骸めいたものを横目に、中心地っぽい場所で分かれる。
ひときわ大きな入り口に、リングと機械獣とで入っていく。
薄暗かった通路に、なぜか灯りが灯っていく。
すぐに、視界を粒子が見える物に切り替えた。
「施設は生きてるね。何か見える?」
「いんや。動くやつはいねえな」
リングの言うように、動くものはない。
粒子の流れも、安定している。
どこかにあるだろうコアからの流れが、安定して見えているのだ。
「施設の動力源のコアを探そう」
「そうだな。それが一番いい。重要なのもあるだろうさ」
一応警戒しつつ、どんどん奥へと。
途中、いくつも部屋らしき空間があるけど、人間の痕跡はない。
大きさもなんとも言えない、半端な部屋ばかりだ。
(機械虫は人間を敵と判定しつつも、人間の影響をなくせていない?)
まるでMMWのままで生活するためのよう……。
見つけた家具の大きさに、そんなことを思うのだった。




