MMW-016
「落ち着いて、訓練通りに……」
言葉だけなら、駆け出しそのもの。
いや、本来はまだ駆け出しも駆け出しなのだ。
連勝しているという事実があるのだが。
そんな俺だが、とても恵まれた環境にいる。
『あいつら、基本的な訓練も受けてないのか? なんて動きだ』
ため息すら聞こえてきそうな、プレストンの声。
内心頷きつつ、せめてもとコックピットは外してエネルギー弾を撃つ。
人体でいうところの両太もも、そして利き手、その関節付近を損傷させ、戦闘能力を奪う。
結果、相手は戦闘不能になり、試合は終了となる。
決まった場所まで下がり、コックピットを開く。
激戦の時は、開放感があるけど……今日はそうでもない。
降りて、観客に手を振る余裕すらある。
そうする間に、機体は台車に固定され、俺を乗せたまま下がっていく。
「セイヤ、無事で何よりです」
「うん。でも、思ったより盛り上がってる? つまらない戦いと思われるかと」
試合後の待機場所も、勝っているからか拘束がなくなった。
警備の人員はいるけど、信用を勝ち取ったのか最初のような緊迫感はない。
そこにやってきたお嬢様との会話というか、反省会というか。
不安を口にしたのは、最近の勝負は長くても2分ほどで勝負がついているからだ。
手加減する余裕があるぐらいなのだ。
聞くところによれば、実力差があると最初から思われている様子。
ランクを上げるために、勝利数を稼いでいると思われているようだ。
『正しくもあり、誤りでもある評価だな』
(まあね。連勝記録で武装がもらえたりするし)
実際には、勝率の高そうな道をたどっているだけなのだが。
今回だって、上位はランダムマッチングを回避してるのだと思う。
この前の試合を見た上位は、万が一が怖いのだ。
「試合はたくさんありますからね。そこまで気にしなくてもいいと思いますよ。それより、本当に機体は不要なのですね?」
「いらないよ。だって……被弾してないしさ」
以前、相手がスクラップにするより下取りに出したことで、それが報酬となった。
この辺りは複雑なのだが、相手の主人が負けた機体は縁起が悪いとスクラップにすることも多いのだ。
逆に、修理して使うこともあるし、勝利の証兼修理部材として要求する場合もある。
勝者として、敗者の機体は受け取らず、その分賞金に上乗せ。
お嬢様も、俺が相手を殺さず、再起可能な状態で勝つことを認めている。
それができるなら、と。
本当は、甘いといわれる行為だ。
次に自分が殺されるかもしれないのだから。
けど、必要ないのなら殺すことはないと思う。
それに……どうせもう何度も戦うことのない相手だ。
俺は、俺たちとしてランクを上げていくだろうからだ。
そんな話をしながら、後はガレージに帰ってからところで、接近者。
『誰か来る。こいつっ、なぜ今ここに!』
焦った様子のプレストンの声。
その声は、警戒として俺の体を動かし、迷わずお嬢様の前に。
そうして初めて、相手の顔を見た。
恵まれた体躯、整った容姿。
映像から抜け出てきたような、金髪の男。
俺でもわかる……こいつは、強い。
「主人を守り、おびえないか。こちらの力を感じ取ったか? センスがあるようだな」
「それはどうも。俺はアンタのこと知らないけど、ここにいるようなランカーじゃないってのはわかるよ」
そう、相手はおそらくは上位ランカーだ。
しかも、この前戦ったのとは比べられないような、もっと上の。
「上がってこい。お前にはそれだけの素質を感じる。MOHS1どころか、私と同じMOHS10のな」
いうだけ言って、金髪男は颯爽と立ち去った。
いったい何だったんだ?
不思議なことに、役を作っている、そう感じたけど……。
『まさか、彼がこの段階でいるとは。閃光のアデル、上位も上位、最高ランカーの1人だ』
(はぁ? そんな奴がなんでこんな低ランクの試合に……たまたまか?)
自分で考えていてもどうにもならなそうなことはわかった。
見ると、お嬢様は驚いたまま硬直している。
「ソフィアお嬢様?」
「はっ!? セイヤ、今のは……閃光のアデルですよね?」
「俺に聞かれても、困る」
どうやら有名人だったらしいが、内緒の情報でしか知らない俺にはイマイチ実感がない。
それよりも……お知らせにあった、施設の向上のほうが大事だ。
まだ夢見心地みたいなお嬢様の手を引いて、拠点のガレージへ。
中に入り、機体を見に行けば……ははっ、なるほど。
確かな変化があった。
「お嬢様、見てよ。機材が増えてる。空調もいい感じだよ」
「え? ああ、確かに。見慣れないのが増えてますね」
明らかに新品の機材、それに特別報酬とステッカーの貼られたコンテナ。
なんだかんだ、頑張った甲斐があるというものだ。
「まずは報酬を確かめて、次の試合のことを考える、でいい?」
「はいっ! 頑張りましょう!」
いや、戦うのは俺だけどさ、とは言い出しにくい元気な反応に、内心苦笑するのだった。




