MMW-167
どこまでも薄暗く、どこまでも大きな違いのない光景。
それがこの地下世界だ。
時々のスターレイ、それに自分で発光するわずかな植物たち。
貴重な光源からの光が、地下世界を俺に見せている。
が、今更ながらに思うのだ。
「どうやってこの明るさ、保ってるんだろうね」
『気が付いていないのか? どこにでもある、力を持ったものがあるだろう』
あきれたような、プレストンの声。
その声に、周囲を見て、上を見て……気が付く。
「ウニバース粒子って、光るの?」
『俺もよく知らないが、粒子間をエネルギーが移動するときに、わずかだけど発光して消費されるんだ』
都合がいい、その一言に尽きる。
もしかすると、地上の空、さらにその先にあるとかいう世界は、うすぼんやり光ってるのかもしれない。
そんな不思議な光景を空想し、一人微笑む。
『分かれ道だ。一応警戒を』
「了解」
俺以外にはいないからと、隠さずに頭の中と話し合う。
もし、機械獣に音声を認識する機能があったら、俺は一人で何を言っているのだろうと思うことだろう。
ドーンスカイの操作補助も受けながら、コロニーへの道は順調だ。
そんな中、以前に遠征があったであろう荒地の中の分かれ道にたどり着く。
車両やMMWが通った後だから、なんとなく道ってレベルだけど。
2つのコロニー、どちらとも違う方向への道。
特に何も見つからず、生活できる場所もなかったとデータにはある。
『各コロニーは、地上でいうところの大都市クラスはある。幸い、食糧や日用品、そのほかの施設、工場といったものが確保、発掘されてるから人類の維持はできている』
「急にどうしたの?」
確かに、気になるなあと今、考えたけれど。
プレストンが教えてくれたように、2つのコロニーはそれぞれで生活できている。
鉱山はもとより徐々に拡張し、希望の穴や箱舟の発見により、さらにそれは充実している。
それでも、自由気ままにというわけにもいかない。
各々、仕事が割り当てられるか、何かしないと生きていけない。
国、というものはなくなって久しいのだ。
『そのうち、そう遠くないうちに俺はお前と一緒になる。同じ人間なんだから当然だな。その時に、と戸惑わないようにとな』
「それは……ちょっと寂しいかな」
こうして相談できる相手が1人減るというのは、とても大きい。
何より、知っていることをちゃんと教えてくれることで、安心できるのは他には代えがたい。
そんな考えも、俺自身であるがゆえに、彼には筒抜けだろう。
『この世界に、子供も大人も、無いのは事実だ。だからお前も……というのは簡単だけどな。気持ちはわかる、何せ俺自身だから』
プレストンには、彼のような相手はいなかった。
自分一人で決め、生きて、そして……。
そう考えると、俺はずいぶんと贅沢だ。
『気にするな。使える物は何でも使えばいい。それが生きるってことだ』
明るく、そして力強くそう言われ、ひとまず納得する俺。
操作を自分ですべく手に力を籠め、半日もしないうちにコロニーに付くだろう距離を進む。
何度目かもわからない岩山や、岩石だらけの荒地を通り抜けたときのことだ。
「? 何か、上のほうに光ってない?」
『光そのものは……いや、粒子で見ろ!』
まだ遠い目的地方面に、何かを感じた俺。
それはまぶしさ。
疑問を口にした俺は、その声に従い見え方を変える。
とたん、世界に粒子の流れが満ち溢れ……上、広い広い岩盤の空に1か所、まばゆいものを見つけた。
「何、あれ? 何か吹き出てくる?」
『上からマグマでも? いや、そういうことか! 何かが突き破ってくる。急げ、コロニーに近いぞ』
とっさに、周囲の機械獣へ向けて、速度を上げる命令を放つ。
人形に教わった、複数体への命令の仕方は、単純で、不思議なもの。
管理者が意志を込めて、周囲にウニバース粒子を放つようにすればいいというもの。
理屈はわからないが、それでいいのなら使うまで。
1機と40機は、荒野を駆けた。




