MMW-165
希望の穴、そこは人形と機械獣、そして人とが集う場所。
周囲は機械獣が主に守りを固め、たまの機械虫を撃退しているらしい。
リングと合流し、ソフィアたちもまもなくというところ。
「確認したいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう」
俺たちのそばに、1人……1機か?待機していた人形。
問いかけると、すぐに反応が返ってくる。
気が付けば、稼働している人形の数が増えた気もする。
そういう許可は出したつもりだし、別にいいんだけどね。
この場所に、人は滞在はしても住んではいないというのがポイントだったりする。
「今度、機械虫の拠点を叩きに行くんだけど、ここじゃ何か情報ない?」
「少々お待ちください。拠点襲撃のデータを抽出してみますので」
そう答えて、思考するように固まる人形。
自分で言っておいてなんだけども……。
(人形、融通が利きすぎでは?)
『ずいぶんと、意をくむことができているな。もともとそういう作りなのか、でもこれは……』
まるで、誰か人間をベースに、思考を機械化したかのような、滑らかさ。
そんな言葉がプレストンから飛び出した。
人を、機械化……そんなことが可能なのだろうか?
よくわからないけど、可能なのだろう。
『だがまあ、それを突き詰めてもあまり意味は無いな。今と未来を生きるのに活用させてもらおう』
(まあね。誰だって知っても、どうしようもないか)
気になるところではあるけれど、後回し。
ちょうどソフィアたちが部屋にやってきたところで、思考は終わったらしい。
「生産拠点のある可能性の高い地域情報は送信できます。それ以外の情報としては、機械虫と呼称されている存在が、何の目的で生産されたかとなります」
「ん、教えてほしいかな」
ちらりとソフィアたちに視線を向けつつ、人形に先を促す。
人形の体から出てきた記憶媒体を受け取り、俺はそれをソフィアに。
続けて話を聞く体勢をとる。
「機械獣と比較し、運搬や採掘には向かない形状をしているのはお分かりかと思いますが、開発理由の1つは農業、監視等の目、と記録にあります。前者は、生物としての昆虫の絶滅の危機に対して、そして後者は模倣する昆虫の機能に注目してとなるでしょう」
丁寧に、抑揚のない声で語られる内容は、とても興味深い。
見方を変えると、地上にいた人間たちが、いかに傲慢だったかともいえるのだけど。
(自分たちの手で、他の生き物を補完しようなんて……)
そういう俺自身、そんな人間たちの考えがあったからこそここにいる。
そのことが、妙に矛盾に満ちた状態に思えてしまう。
「セイヤ、考えすぎないように」
「ん、ありがとう」
顔に出ていたのか、前に自分の存在理由について話したからか。
ソフィアの、冷静な声が俺を戻してくれた。
「ある程度成功したわけですが、自律機能を搭載したのが間違いだったのでしょう。一部の機械虫が意図しない動きをはじめ、いつしかそれは制御不能の集団と化したようです」
「それで地下でも襲ってくるのか。迷惑な話だな」
リングの言葉に、深々と頷く俺。
赤ちゃんをあやすエルデ、静かにたたずむ爺も似たような表情をしている。
俺は光の海や謎の光景で見知っている地上の光景。
あそこで見た歴史……は、人の良い所と悪い所が入り混じっていた。
それを知らずに今の話を聞けば、当然思うだろう。
地上にいたときの人間の失敗が、今の状況を生んだのかなと。
『たぶん、正解だし間違いでもあるのだと思う。俺も、すべてを知ることはできなかった』
何回やり直したのか。
正確には、やり直したらしい記憶があるのか、プレストン自身もよくわからないだろう。
もしかしたら、すべて俺の妄想だったということだってあるのだから、悩ましい。
「それこそ、今と未来のために自分たちが頑張るしかないよ。地上を取り戻すにせよ、地下で暮らすことを選ぶにせよ、ね。ありがとう、参考になったよ」
そう告げると、人形は再び待機状態に戻った。
少し妙な雰囲気になったけれど、機械獣の準備が終わるまでをどう過ごすかに話は変わっていくのだった。




