MMW-164
休憩後、もう一度ヘルメットをかぶる。
そうして飛び込む、知らなかった世界。
この教育ソフト?を設計、作成した人はいわゆる運営、組織の長に近い人だったようだ。
知らない単語、知らない過去の情勢が頭にしみ込んでくる。
このことは、コロニーの代表者……眠っていない立場の人は、知っているんだろうか?
(上の人らも知ってることと、知らないことがありそうだよね)
例えば、ベルテクスがどこまで知っているかは、難しい問題だ。
少なくとも、こんな個人の考えの部分は知らないと思う。
眠っている指導者の1人から伝えられた範囲、だろうな。
『眠ってる彼?彼女?が俺たちと同じ管理者権限を持つのかも気になるな』
それは、考えていなかったなあ。
たぶん、持っているとは思うけど……気軽には試せない。
今のところ、まだその管理者たちを地下世界に適応させることは難しいらしい。
医療関係の設備が、見つかるといいのだけど……。
教育の内容を確認した限りでは、医療系の設備はあまり運び込めていない様子。
そりゃあ、明日を食べていくための設備のほうが重要度高いよね。
「でも、希望はあった」
2度目の体験教育は、思ったより早く終わった。
地下に逃げ込んだ人類の大体の内訳や、地下に来たであろう設備たち。
何よりも、それらがどのぐらい前の出来事だったかということ。
みんなには、伝えにくい内容は……黙っておくほうが良いかな?
伝えるべきは、工場とかの設備の情報だろう。
「スターレイの近くを探すのが効率が良い、これは重要だ」
「記録によれば、スターレイは天然資源として発見されたものを、人工再現に成功したとあります。自己増殖を可能にするようですよ」
「そんな気はしてたよ。あれ、何キロ長さがあるのさって話だからね」
独り言に、人形の冷静な言葉が混じる。
伝えていい情報、まだ早いという情報が、他にも結構ありそうだ。
スターレイの今更のようにも思える情報を得、機械虫への攻撃の後することは決まった。
希望の穴、箱舟に続く人類復興のための設備、工場類を発掘するのだ。
「機械獣の設定には27時間ほどいただきたく」
「了解。ま、その間に色々やっておくさ」
希望の穴のこともしっかり見ておきたいし、と告げて部屋を出る。
ヘルメットを預かった人形が、人間臭い仕草でお辞儀をする姿は、妙にしっくりきた。
ソフィアたちの居場所を聞いて歩き出す俺の視界には、活気のある光景が飛び込んでくる。
2つのコロニーからやってきた人間たちが、立場など関係ないとばかりに交流しているのだ。
そのことはとても喜ばしく、動いた甲斐があったなと思う。
「話は終わったのか、セイヤ」
「リング。うん、ちょうどね。そっちも問題ないみたいだね」
少し浮かれた様子のリング。
良いことがあったんだろうなと思うけど、いちいち聞きだすのもね。
言いたければ、きっと彼から言ってくることだろう。
「ん、まあな。すぐ出発って感じじゃなさそうだな。数日は準備か?」
「そうなるかな。機械獣を設定するのに、1日ぐらいかかるって。何しようかな?」
合流して歩きつつ、そんな会話。
試合会場はなさそうだけど、それっぽいことは自主的にしているらしい。
人形側も、データが取れるからと協力してるとか。
(……気のせいかな。人形という割に、ずいぶんと)
『それだけ、地上にあった技術ってのが高い水準にあるんだよ。一応、俺の記憶の範囲では反逆みたいなことはなかったぞ』
俺のそんな言葉に、一人安堵のため息をつく。
機械を使うのは良い。
機械に使われるのは、どうかと思うからね。
ソフィアたちのもとへと歩きながら、そんなことを考える。




