MMW-155
「移動拠点、どういう形が良いか……爺は何かアイデア無い?」
「車両式は大きさが限られていますからなあ。若が地上から避難させた工場を見つけるほうが早いかもしれませんが」
冗談めいた爺の言葉に、俺も思わず苦笑を返してしまう。
これまでの出来事からして、本当に出てきそうだからだ。
移動前提の、巨大な車両……うん、ありそうだ。
今のところ、車両はあまり多くの種類は生産できないらしい。
大きいもので、今使っている大型のトラックが限界。
本当なら、もっとしっかりした……戦闘に適した車両というのもあったはず。
光の海で見た光景で、そんなものがあった気がするのだ。
問題は、それが地下世界で再現できるかである。
「まずは暮らせる空間と設備を一緒にできる大きさ、ですね」
「装甲……は当たったらどうせ終わりだし、移動能力と探知用のセンサーあたりが重要かしらね」
「中央の部分ぐらいは丈夫でいいんじゃないか? 最悪、そこだけでも生き残って逃げられればいいって感じで」
(誰も、移動拠点を戦力化!と言い出さないのは安心だなあ)
それぞれの意見を聞いてみた結果は、ある意味わかりやすいものになっていく。
足もMMWとして人型にこだわる必要はない、と。
雑に設計してみたけど、その見た目はなぜか見覚えがあるものに。
「小さい箱舟? しかも高速移動用にブースターたくさんの」
「だな。コアを4つぐらいつければ、十分賄えるだろう。戦わないからな」
そう、上は建物をそのまま、下側はかつてあったという水に浮く船と呼べるもの。
移動方法は、普段はトラックにもあるようなタイヤ。
そして、高速時にはMMWのブースターを応用したもので、浮こうというのだ。
リングの言うように、武器にエネルギーを持っていかれないのであれば、意外といける状態だ。
「じゃあ話を持って行って、予算を出してもらってそれに向かって稼ごう」
「おう。つっても、最初の稼ぎはすぐ来ると思うけどな。謎の襲撃者、今のコロニーが放っておくとは思えん」
「そうですね……例えばですが。人形に命令を出していたらどうでしょう。一定期間人間からの指示がない場合、自己増殖し、環境を整えよ、みたいな」
ソフィアの思い付きは、かなりいい線いっているような気がした。
そのぐらいのことは起きていると感じるからだ。
以前あったというコロニー同士の連携、その外にいるかもしれない機械虫。
それに、まだ見ぬ地下にあるだろう人類の遺したもの。
同じ人類でありながら、別の道で地上へと目指して動く集団。
問題になりそうなものはまだまだありそうだけど、俺の知っている世界は狭い。
まずは、世界を知ることだろうか?と思うのだ。
「案外、遠くのコロニーじゃ、とっくに地上に出てるかもしれないよね」
「否定はできませんな。どれだけが地下世界に生きているかすら、わからないのですから」
爺に頷きつつ、移動拠点のデータをまとめていく。
まず話を持っていくのは、リッポフ商会。
結局は、大きいものは大きい相手に頼むのが早い。
もっとも、こちらのほうがと紹介されることもある。
そのあたり、全部自分のところでという感じじゃあないんだよな。
「地上はもう取り返されていて、私たちは滑稽な姿、なんていうのは嫌ですからね。セイヤ、頼みます」
「もちろん。やれるだけのことは、ね。でも大丈夫だと思うよ」
不思議そうにするソフィアに、しっかりした答えは出せず、カンだけどねとだけ言う。
仮に、人類が地上に戻れているなら、豊富な資源としての地下世界を放っておかないと思うのだ。
それに、地上の工場とかは被害を受けてるだろうから、地下にあるものを持ちだそうとするはず。
そういった相手に遭遇してないから、大丈夫。
我ながら、都合のいい推論だけどね……うん。
『ま、似たようなもんだな』
プレストンのどこか懐かしいものを見たという声を聞きながら、まとめたデータを送信するのだった。




