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空を目指して走れ~地下ロボ闘技場でトップランカーを目指す俺の記録~  作者: ユーリアル


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MMW-149



「セイヤ、買い物に行きましょう」


「また急だね。爺も一緒なんだよね?」


「ぜひとも」


 試合は午後からとなっている朝。

 いつも通りにMMWを拭いていた俺に、元気なソフィアのお誘いが来た。


 リングたちは、赤ちゃんと一緒にまだ部屋にいるはずだ。

 俺にはよくわからないけれど、今の時間は貴重、そんなことを言っていた。


「最近は売り物も色々変わったらしいし、俺たちも消費しないとね」


「そういう目的ではないんですけれど、仕方ないですね」


 幸いなことに、負けていない俺たちは稼いでいる。

 普通の戦士と飼い主は、勝って負けてを繰り返して時に落ちていく。

 最近はそれも減ったが、無いわけじゃない。


 今まではもうどうしようもない状態でも、外仕事に参加して再起を図れるだけでも上等だろう。


「若、車で向かいますかな。それとも……」


「今日は徒歩でいいよ。持ちきれないような買い物をしたら、送ってもらえばいいし」


 言いながらソフィアを連れだってガレージの外へ。

 頷いた爺は、ごく自然に後ろについてきた。


 外に出た俺たちを、たまたま近くにいた他の住人が見るけど、見るだけだ。

 以前はやっかみとかが強かった気もするが、最近はおとなしい。

 自分たちだって稼いでやる、そんな空気がコロニー全体に広がっているからだとリングは言っていた。


「食事をどうするかと考えることができる、以前は考えられなかったです」


「俺もだよ。でも、色々にぎわってるねえ」


 雑談をしながら向かった先は、マーケット。

 どこで手に入れたかわからない雑品や、リッポフ商会などの店舗も並ぶ場所。

 コロニー全体で考えると、何か所も同じような光景が広がっているはずだ。


 俺がソフィアと出会ったころは、妙な色合いの灯りや、あきらめにも似た短絡的な雰囲気に満ちていた空間。

 それが今は、明日の活力を得るために獲物を探す狩人たちの空間のようだった。


「言いえて妙と言えましょう。若やお嬢様の成功を知り、腐っている場合ではないと誰もが前のめり」


「良いことなのか悪いことなのか……何とも言えないね」


「停滞しなくなったという点では、喜ばしいのでしょうね」


 そんな話をしながら、何かいいものがないかと店舗を見回っていく。

 そんな店舗の1つに、俺は足を止める。


「セイヤ? ああ、懐かしい……もう懐かしいという気分になれたのですね」


 つぶやくソフィアの声には、様々な感情がこもっているように感じた。

 この店舗は、俺たちがソフィアの一度手放した服が売っていた場所だ。


 あの時と同じような、いろんなものが並んでいる。


「若、ここは?」


「爺の知らない思い出ってやつさ。ちょうどいいや、見ていこう」


「ええ、そうしましょう」


 店員は、あの時と同じく興味なさそうにしている。

 変に話しかけてくるより、このほうが良い。


 見るからに安物から、なんだか高そうなものまで。

 どうしてこんな場所に?と思うようなMMW用らしきオイル缶まで転がっている。


「あの時は見て回る余裕がありませんでしたね」


「うん。ほら、アクセサリーもあるよ」


 見るからに安物ばかりだけど、意外にも丁寧に並べられたアクセサリーたち。

 1ついくら、と値段の差もない売り方が、こういう場所らしいと感じる。


 と、その時だ。


(あれ? 気のせい?)


『いや、たぶん当たりだ』


 きっと、売った側も買った側も気が付いていないと思う。

 そんなものがあるはずがないという思い込み。


 それは……輝石具。

 使い捨てに近いけれど、MMWに乗っているかのような力を発揮する特殊な道具。

 ほぼすべてに、宝石としての石がはめられている。


 見つけたのは、一見すると真っ黒な石の付いた指輪。

 でも、俺の目には赤に近い光が見えたのだ。


「これもらうよ」


「まいど」


 いつかの買い物と同じ返事を聞きながら、会計を終えて店を出る。

 戸惑う2人を引きつれて少し歩き、道端にある誰の物かもわからないコンテナに腰を下ろす。

 不思議そうなソフィアと爺を見て、俺は笑顔を向けた。


「これ、つけてみて」


「ええっと……ん? 何か感触が……」


「若、まさか」


 そのまさかさ、と言って落ちていた小石を山なりにソフィアに投げる。

 当たっても痛くもなんともない小石は、ソフィアの少し手前ではじかれるように空中で向きを変えた。


 そう、障壁を張る輝石具だったのだ。

 このぐらいなら、力の消耗もほとんどなかったはず。


「なんとなく、MMWの武器と同じ感じがあってね。でも試作品か何かかなあ?」


「驚きました。でもこの障壁だと、確かに使いにくいですね。こうやって誰かと握手もできないようです」


 言いながら、ソフィアが俺と爺に手を伸ばすが、途中で何かに邪魔されるように止まった。

 俺も爺も、ソフィア自身も間に何かあるのを感じたのだ。


「いざというときの備えにはいいですな」


「うん。それに、消費は少なそう。つけっぱなしでも結構持つんじゃないかな」


 俺の言葉に、危険がありそうなときには使うことにします、と答えて大事そうにしまい込むソフィア。

 そんな彼女の姿を見て、別の買い物もしよっかと告げ、再びマーケットを進むのだった。



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