MMW-014
(これは予想してなかったなあ……)
『彼女らしいじゃないか。親と屋敷にいたという戦士の関係も良好だったんだろう』
思考を半ば逃避させながら、俺は腕の中で泣いているお嬢様をどうするか悩んでいた。
試合後、俺は疲労からか降りれず、機体ごと拠点に運ばれたらしい。
そのまま運ばれたということは、機体自体は爆発等の危険はなかったようだ。
攻撃をいいところで受けたということだろう。
で、誰かにコックピットから出してもらったようなところまでは覚えている。
次に目覚めたときはベッドの上。
そして、そばにいたソフィアお嬢様が泣いているというわけだ。
「あー、そろそろいいか? 誰か来たら俺が怒られるかもしれない」
「グスッ……それは、困り、ますね……体の調子はどうですか。治療もタダではないので、診察料金だけ払ったら、寝かせておけと言われましたが」
そう言われて、体を起こして確認してみる。
手は……OK。いつも通りのヒリヒリ感があるぐらい。
頭や胸も大丈夫。
(足も、動くな。本当に疲労だけだったか?)
「どうしました? どこか調子が? その……もう、1人にしないでください」
「俺はひとまとめいくらで生産される戦士だよ。お嬢様とは違う」
口にしながら、お嬢様はそう思っていないんだろうと考える。
情が移った、といえばわかりやすいだろうか。
『そんなもんさ。悪くない気分だろう? 誰かに心配されるっていうのはさ』
確かにほぼ初めての経験ではある。
けれど、そのままでいいとも思えない。
「たとえそうだとしても、セイヤにはもっと強くなって、もっと生き残ってもらわないといけません。空を、見たいのでしょう?」
「ああ、そうだね。そうだった」
きっかけは、教育時に教官もどきが言っていたこと。
そして、買い物用カタログなタブレットにあった表示の1つ。
教官もどきは言っていた。
段階的にだが、身分を買い取ることができると。
最下層の今の立場から、傭兵のように主人を渡り歩けるような立場へ。
最終的には、買う側へと自分自身の身分を買い取れると。
ただし、お値段は言葉を失いそうになる価格だ。
カタログの隅にあった、特別な項目がある。
コロニー内での身分買い取り表、そんな感じのもの。
「もし、セイヤが私と同じ……」
「今から気が早すぎる。足元をちゃんと考えないと。機体を修復させるのが先だよ」
体は問題なく、動けそうだ。
お嬢様から上着を受け取りながら、部屋を出る。
無機質で、あまり清潔とは言えない廊下の様子に、ため息が出そうになる。
まだまだ、道のりは遠いと。
「あ、出ていく前に清算しておかないと」
「時間払いなの!? もっと早く起こしてよ!」
こんなところまで世知辛いなと思いつつ、今度こそ建物の外へ。
不思議と、医者のようなスタッフは見かけなかった。
外に出ることで、その理由がはっきりする。
どこか見覚えのある、ガレージのある建物が立ち並んでいたからだ。
「なんだ、拠点の近くなんだ」
「ええ、区画ごとにある医療施設らしいです。といっても、この区画のはあのベッドがある部屋がいくつかという感じですけどね」
「なるほど……じゃあ、俺は運がいいってことだよ」
不思議そうなお嬢様に向き直り、現実を告げることにする。
「たぶん、俺たちぐらいのランクだと、無傷か死ぬかが多いんだよ」
「あっ……」
「だから、運がいいってことさ。さ、機体を直さないと次の試合に間に合わない」
少し落ち込んだ様子のお嬢様を連れて、我が家へと向かう。
見た目はぼろっちいのに、意外と中身はしっかりしてるんだよな。
プレストンの話からすると、文明が後退、もしくは崩壊してるって話だけど……。
『人間、しぶといもんさ。さて、機体のほうだが右肩付近がおしゃかだ。だが、ストックしてあるやつから持っていけば十分直る。次は武装だな。そろそろ基本装備としての武器もよくすべきだろう』
ガレージのシャッターを開け、見えてきたのは確かに痛んだ愛機とストックの機体。
MMWの特性上、ニコイチ、サンコイチは余裕なのがうれしいところだ。
(それなんだけどさ……こういうのはダメかな?)
思考することでプレストンという、おそらくMMW操縦のベテランであろう相手に考えを伝える。
これまでの戦いで、思っていたことがあるのだ。
今の武装だけでも、当たれば勝つし負けると。
奇策めいたことをしなくてはいけなかった原因、それは……。
「お嬢様、購入手続きをしてほしいものがある」
「はい、どの武装にしますか? 私にはまだまだわかりませんから……え? これを?」
「ああ。十分足りるだろう?」
俺がタブレットの画面を指さして選んだもの、それは今よりも良いメタルムコアとその炉心だった。




