MMW-147
希望の穴。
地下に人類が作り上げた、新たなる拠点。
作業自体は、人類が指示した人形によって、だけども。
「前より、大きくなったかな?」
「いえ、要望に従って施設を調整したのみです。健康状態に問題はなさそうですね、管理者」
最初と比べると、ずいぶんと流ちょうな会話になっている人形。
おそらくは、この場所を利用する人間相手に、たっぷりと学習したのだろう。
見た目はまだメカメカしいけど、仕草は妙に人間臭い。
姿勢や動きが、とても滑らかなのが、どこか面白かった。
「聞いてるかな? ここと向こうのコロニーをつなげようって話」
「はい、計画は出ており、問題ないと判断しております」
案内されるまま、俺とリング、それにベリルコロニーの人員は進む。
ほかの戦士たちは、希望の穴に何やら用事があるようで、各々散っていった。
あちこちに人の気配があり、思ったよりここが人間の利用する場所になっていると感じる。
そのことは、人形……そして施設そのものにもいいことなのか、どこか明るい雰囲気だ。
機械に、雰囲気も何もないはずなのにね。
『彼ら、と言っていいかわからないが、彼らも作られた意味を果たしたいからな』
(それもそうか……うん、そうだよね。俺だって)
と、そこまで考えたところで人形が足を止めた。
周囲の建物と比べ、少し豪華というか、丈夫そうな場所。
「支援施設、通称箱舟の発見はこちらにも届いています。人類は、同様の施設を複数生産し、分散して地下世界に送り込みました。一度に一か所の場合、何か有事の時にすべて失われかねないと考えたようです」
「道理だな。もっとも、今回のように合流できなかったらそれはそれで問題だが」
リングへと律儀に人形が頷いて、扉を開いた中には、人が暮らすための空間。
そんな中にある、作業机を中心とした主のいない家具たち。
古めかしいけどきれいで新しく感じるタブレットが鎮座していた。
「予定された管理者による、遺言……なのだと思います。ほかの施設と連携、合流が確認できた際に開放するようにと。管理者、閲覧を」
「俺でいいの? わかった」
予想外の出来事に驚きつつ、今のものと操作感に違いがないタブレットを起動する。
むしろ、今使ってるのが古いままなのかもしれないな。
独特の音を立て、問題なく起動した画面には……見知らぬ顔。
疲れたような、悟ったような表情に感じる。
「科学者ってやつか?」
「かな? 教育で似たような恰好を見た覚えがあるね」
「にしても、元気ねえなあ」
リングも横から画面を覗き込み、そんな感想を口にする。
彼の言うように、元気のなさそうな表情である。
とはいえ、人形の言う通りなら、これはつまるところ、彼の終わりの映像なのだろう。
そうなれば、明るい状態ではないのも納得できる。
と、音声が聞こえ始め、自己紹介から始まったようだ。
─私の名は……いや、名前に意味はないか。記録は残すが、それだけだ。
力のない、ささやくような音声が部屋に響く。
すぐに要件に入った彼?の話す内容は、興味深く、悲しいものだった。
人類は、地下に逃げ込んでも一致団結とはいかなかったのだ。
─と、そういうわけで、各地とのコアのリンクは切断する。リンクによる共鳴効果で、復興する予定だったのだが……。
「地下を第二の故郷として、地上に戻らないことにした派閥と、戻るために動く派閥、それに……」
「人類としての存続をあきらめた派閥、か。死にたきゃ自分たちだけで勝手にすればいい……ったく」
細かい派閥は他にもあるけど、大まかに3つ。
その中でも、人類自体がもう終焉を迎えたのだと判断した派閥が、厄介だった。
考えようによっては、この前戦った相手よりも、良くない。
この前戦った相手は、主導権はどちらにあるかはともかく、人類自体は存続させる意見だったからだ。
とはいえ、それもこの遺言めいた動画が撮影された当時のこと。
「それはそうだけど、今はもういないんじゃないかな? だって、人類は存続すべきではないって人たちなんだもの」
「それはどうでしょう。案外、そういう考えの場合は、目的が達成できるまで生き残るべき、としているかも」
話を一緒に聞いていたベリルコロニーの人員が、そんな不吉なことを口にする。
彼自体は、ベリルコロニーの一員として、人類存続に希望を見ている側のようだけども。
そうしてる間にも、動画の話はゆっくりと進み、そろそろ終わりのようだった。
─コアのリンク、それ自体はやろうと思えば簡単に戻せる。これを見ている人類が、判断してくれ。
そんな言葉と共に示された手法は、ある意味簡単なことだった。
同じ構造のコア用の石を、リンクしたいすべてのコアに入れること。
映像が終わり、情報をまとめた俺たちは、お互いのコロニーに報告へと戻るのだった。




