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空を目指して走れ~地下ロボ闘技場でトップランカーを目指す俺の記録~  作者: ユーリアル


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MMW-013


 結論から言うと、作戦は成功しつつ、失敗した。


『左後方射撃!』


「こなくそっ!」


 訓練時に、見せつけるようにプレストンがしていた見事な操作。

 それをどうにか模倣しながら、乱戦模様の攻撃を回避していく。

 その甲斐あってか、低ランク側の1人が放った弾丸はかすりもせず土煙を上げる。


 急制動に伴うGに顔をゆがめつつ、回り込むことで残った上位戦士、下位戦士、俺という位置に。

 俺を狙ってきた下位戦士は、周囲を気にせず俺のほうを向き……上位戦士ともう1人の下位戦士に撃たれた。


「上位はともかく、もう1人も動きがいいな。ちっ!」


『偶然じゃないってことを、わかってるんだろうな』


 試合開始直後、狙い通りに俺は行動した。

 上位戦士の片方へと向け、肩ミサイルを全部発射した。

 選択理由は、単に近かったからだ。


 奇襲のはずだが、さすが上位戦士。

 手持ちのライフルが連続して放たれ、多くは外れた。

 しかし、いくらかはミサイルに直撃し、中身を巻き散らかした。


 中身は廃棄予定でドラム缶に保存されていた、MMW用オイル。


 空中ではじけることで、爆風とともに飛び散ったオイルは俺以外の機体に付着する。

 明らかに動揺が見て取れた。


 その隙に、同じく中身を廃棄用オイルにした弾丸を狙いの上位戦士へと打ち込み、見事命中。


(結果、メタルムコアの出力が不安定になり、制御不能になる、と)


 そう、意図的に事故の状況を作り出したのだ。


『MMWは汎用性の高い兵器だ。逆に、条件さえそろえばなんでも機体、パーツと認識するほどに』


「使用済みオイルを付着させることで、そこにも動力を伝達させるものと誤認識させる。事故の経験様様さ」


 あえて説明臭く一人つぶやく。

 試合中の発言は、ソフィアお嬢様だけでなく、観客へと伝わっているはず。

 それを利用し、作戦であることをアピールするのだ。


 異常出力により、その上位戦士の機体は半ば暴走するように動き回り始める。

 両手に持っていた銃も、ひたすらに弾をばらまいている。

 もう1人の上位戦士や、隙を伺っていたらしい下位戦士たちもその攻撃を向け……撃破。


『これで5人から3人、どうも下位戦士はこっちを狙ってるみたいだが?』


「俺と上位戦士、どっちが倒せそうか、なんていうまでもないよね」


 わかっていたことだけど、キツイ。

 2人による攻撃は連携なんてあったもんじゃない。

 それが逆に動きの読めないリズムとなっていた。


 単純に見れば1対2、数としては不利。


 だが、俺には彼らにはないものがある。


『下位戦士は俺が知覚する。うまく処理しろよ』


(勝手に言いやがって! やるさ、やるしかない!)


 絶え間なく操縦し、攻撃を回避。

 その間も、まるで目が複数あるかのような回避になっていたはずだ。


 そう、俺は上位戦士を。

 プレストンは下位戦士を見ているのだ。


 曰く、鍛えればこのぐらいには視野は広くなるし、MMWで戦うならだれでもできるとのこと。


(本当か?と思うけど、こう実感させられちゃあな)


「負けてたまるかっ!」


 内心の恐怖をかき消すように、叫びながら生き延びるために操縦を続ける。

 それでも回避しきれない銃撃が装甲に当たり、着実にダメージは受けてしまっている。


 上位戦士からの攻撃を何とか回避しつつ、たまたまタイミングのあった下位戦士の攻撃も回避。

 そちらを見ず、攻撃を感じたから、避けようとした。

 言葉にするとそれだけのことだ。


 わかっていても、操作が追い付いていない。


(下手に下位戦士を狙えば、横から殴られる……どうする、どうする!?)


 焦りが思考を鈍らせていくのを感じる。

 このままじわじわと弱るのを待つだけか。


 そう考えてしまったとき、プレストンが表に出てきそうになるのを感じた。


「俺が……やるっ!」


『ああ、それが正解だ。自分の意思で、生き残れ! 奴らはまだ俺たちを運がいいだけと思ってるぞ!』


 プレストンが引っ込むのと同時に、俺の焦りも持って行ってくれたように感じた。

 そうとしか言えないほど、空回りしていた思考が戻ってきたのだ。


「こうなったら、一気に踏み込む!」


 下位戦士を狙っていては、上位戦士に食われる。

 そう確信していた俺は、あえて上位戦士へと機体を突撃させた。


 残った銃を連射し、距離を詰める。

 下位戦士からの攻撃は、致命傷になるものだけは回避するようにあえて受ける。


(まるで、破れかぶれの突進のように見えるだろうなあ……!)


 俺の予想通り、上位戦士の攻撃はぬるい。

 この状態でもショーになるようにと見栄えを考えた攻撃だ。


 だからこそ、さらに俺は踏み込む。


『エネルギー系の剣だっ!』


「見えてるっ!」


 少しでも速度を落とさないよう、わずかに機体を下げ、さらに前に。

 嫌な音を立てて、相手のエネルギー剣が機体の右肩付近に刺さるのを感じた。


 鳴り響く警報、そしてコックピット内にも異音と異臭。

 これで長くは戦えなくなってしまっただろう。


「でも、この距離ならっ」


 無事な左腕で、銃を手放しウォーピック展開をイメージ。

 何度も練習した、無発声武装展開。


 上位戦士が気が付いた時にはもう遅い。


 人の体でいうと、脇ぐらいからウォーピックをしっかりと差し込んだ。


『後ろに回り込んでコイツを盾にしろ!』


 助言に従い、機体の位置を変えると抱えるようになった上位戦士の機体が揺れる。

 下位戦士の放った弾丸が、直撃したのだ。


 さて、ここからどうする、というところで聞き覚えのない音が響き渡る。


『確か、降参の合図だ。発信音は……上位戦士からだ。まだ生きてるな』


 プレストンの言葉を肯定するように、試合終了の合図が響く。

 と同時に、響き渡る怒号のような歓声。


 俺たちの戦いは、賭けの対象にもなっているというから、きっと大荒れなんだろうな。


「勝ったよ、お嬢様」


 沸き立つ会場の一角に、泣きそうになっているソフィアお嬢様を見つけ、無事な腕を振らせる。

 それが観客に受けたのか、歓声はさらに大きなものになるのだった。




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