MMW-135
「工場であり倉庫と言っていたが、どんなものが作れるか、カタログのようなものは出せるか?」
移動中、何もせずに休息だけというのも時間がキツイ。
そう思った俺は、話のタネにとこんなことを聞いてみた。
表情のわからない人形、そのうちの1体は俺のほうを向いてその瞳を光らせる。
「何か映像を映せる媒体をお持ちでしょうか」
「セイヤ、これなら使えるのでは」
普段、まさに武装なんかをカタログとして見るタブレット。
ソフィアから差し出されたそれを、人形はそのまま受け取り……端子に指先を器用に変形させて突き刺した。
何やらつぶやきと光の明滅があったかとすぐに光が消え、入力は完了したようだ。
こちらに返してくれると思いきや、いきなり床から何かが出てきて、そこにタブレットを乗せた。
なんていうか、昔の技術って無駄に器用というか、細かいな。
「確認を。兵器類はほぼありません。なにせ、復興目的ですので。資源そのものは少ないですが、資源を生産するための術は多いかと。データの転送と同時に、情報共有をしましたが……一番有用なのはこれでしょう」
だんだんと流ちょうに話すようになった人形。
こちらとの会話とかで学習してるんだろうか?
そんな彼が選び出した項目は……。
光り輝く、球体?
「おいおい、マジかよ。人口太陽? そんなもんがあったのか」
「太陽、あの教育で聞いた光り輝く星……だったか?」
タブレットを覗き込んできたリングたちに、驚きが広がる。
俺自身も、その輝きに半ば目を奪われていた。
粒子の海で見た、きっとかつての地上の姿。
その光景の多くにあった、天に輝く光。
(これが……太陽)
『あくまで人口、のようだが。だがこれが本物なら、色々と変わってくる。俺の記憶には、そういうものがどこかにあるとしかないから、詳細はわからないが』
プレストンも覚えがないというソレ。
大きさは、MMWの半分ほどだとあるけれど、一体どれほどの物だろう。
「ウニバース粒子を使用し、出力の制御が可能な当時でも最新式です。実装前に、地下に逃げ込むことになったようですが」
「なるほどね。目的地、俺たちのコロニーに着くまで色々聞かせてもらおうかな」
そうして、コランダムコロニーがもうすぐ見えてくるというところで、リングたちに先行してもらうことに。
考えてみれば、すぐわかることだけど……この施設、でかいのだ。
先に知らせておかないと、緊急事態だとばかりに戦闘準備が行われる可能性が十分ある。
俺はこれの操作に残る必要があるので、一度止めてみんなには先行してもらった。
証拠になるだろうと、いくつかの機材は持って行ってもらうことに。
残るのは、ソフィアと爺と俺という3人だ。
「ずいぶん大きなお土産になりますね」
「まったくだよ。最近、俺が持てないようなものばかりだ」
悪いことではないとは思う。
どれも、俺たちが生き残り、世界を広げるには重要なものばかり。
怖いぐらいに、揃ってきている。
空を見るために、しないといけないことがある。
何かが、そう言っているかのような状態だ。
「若様、年寄りの意見としては、それは運命と呼べるものかと」
「運命、か。なんだか決まってるみたいで少し気になるから。自分たちの手で、未来は決めたい」
モニターに映る、先行するリングたちを見ながらそんなことをつぶやく俺。
爺がなぜか頷いたのが印象的だった。
振り返れば、用がない時は無言の人形たち。
立ったままの彼らと、施設を見てふと思った。
「この施設には名前はある?」
「特定の名前は付けられていませんが、複数生産されたはずで、共通した開発時の呼び方があります」
それは?と問いかけた俺に返ってきた答えは、なぜか人形2体から同時の物だった。
重なった声が教えてくれる呼び方、それは……。
「「箱舟、そう人類は呼んでいました」」
不思議と、その声は妙に響いて聞こえた気がしたのだった。




