MMW-134
近づいてくる人形2体。
暗がりから出てきた彼ら(彼女ら?)は希望の穴にいたものより、硬さを感じた。
雰囲気と言っていいかもしれないが、まるで施設の一部だと強く感じる物だった。
MMWから降り、彼らへと近づく。
ソフィアたちから、また危ない真似をと思われてそうだけど、仕方ない。
MMWに乗ってる状態が基本と思われても困るからだ。
「管理者は俺だ」
自分も作られたという点では、彼らと同じかもしれない。
けれども今は、あくまで使う側としてふるまうことにした。
それがうまくいったのかはわからないけど、目の前まで来た彼らが俺を検査しているのがわかる。
目に相当するパネルが瞬き、顔がこちらを向き、頷いた。
(これは、問題なかったということだろうか?)
『たぶんな。何か命令してみろ』
「この場所の説明は可能か? ずっと停止していたのか?」
「ハイ。ヒョウジュンタンイジカン600ビョウマエマデ、テイシシテイマシタ」
いまいちわかりにくい声だけど、ついさっきまで止まっていたということか。
となると、俺の攻撃がきっかけになって起きたってことかな?
それはそれとして……。
「続きの前に、話し方を人間に合わせられるか?」
「メイレイヲジュダク。はい、可能です。場所の説明に移ります。ここは倉庫であり、工場です。地下に人類が逃げ込む際、多くの戦力と、資材、そして工場が分散して運び込まれ、事前に計画された地域へと分散して移動しました」
「それはなぜ?」
「地上での戦闘は激化し、逃げ込む際に追撃を受ける恐れが高いとデータにはあります。こうして再稼働しているということは、我々は難を逃れたのでしょう。管理者、現在の時刻情報を要望します」
人形の片方が、手を差し出してきた。
その手のひらには、何かを差し込む穴があるのがわかった。
ただ、残念ながら俺には何を差し込むかはわからない。
人形の手を握り、その無表情にも感じる顔を見る。
「人類の……地下世界への撤退は成功とは言い難い。かつての国といったものは失われ、俺も正式な管理者じゃあないんだ」
「再スキャニング。再生体の形跡を確認。人類は滅びたのですか?」
「いや、生き残っている。かつての文明は半ば失われているけれど……だから、復興の助けがいる」
この会話は、賭けに近かったと後から気が付く。
希望の穴にいた人形は、俺たちにすんなり協力してくれた。
けれど、他が同じだと誰も保証はしてくれないのだから。
人類が正常に逃げ延びていない時に、情報を渡さない等設定されている可能性もあったわけで。
「情報が必要です。管理者……と同一個体と思われる人類に依頼です。移動設備を再起動し、情報が得られる場所まで移動させてください」
「移動設備? わかった」
人形たちの返事から、賭けには勝ったらしいと悟る。
施設維持の動力以外は停止していたこの場所は、確かに地上から逃げてきたものであるらしかった。
俺は後ろを振り返って頷くと、人形たちに移動設備なるものへの案内を依頼する。
人形が先を進むたびに、どこかの照明が点灯し、暗がりを照らしていく。
そうすることで、この場所が思ったより広いこと、文字通り工場だということを感じさせる。
しばらく進んだ先に、希望の穴で見たような大きなコアがあるだろう区画が見えてきた。
「24時間単位で10時間ほどですが、浮遊しての移動が可能です。その後は充填に6時間ほどかかります。浮遊距離は接地面よりおよそ5メートル。乗り物等あるようでしたら、中に運び込んでからの起動を推奨します」
「だってさ。みんな、いいよね?」
リングやソフィア、エルデまでもが驚いたまま、頷いている。
赤ちゃんは、何がなんだかわかってなさそうだけど……うん。
戦士たちが移動のために動くのを見守りながら、俺は人形に質問を続ける。
「動力は何だろうか?」
「ウニバース粒子の制御を目的に生成された半人工石、スタナイトを100㎏使用しています」
『スタナイト? 現物があるのか……』
また知らない単語が出てきたけど、ここはつっこまない。
わからなくても、使えるのなら問題ないのだ。
操作方法の確認を行い、みんながやってくるのを待つ。
トラックやMMWの音にそちらを向けば、無事全員が移動を終えたようだ。
リングも、問題ないとばかりに頷いている。
「よし、じゃあ移動をしたい」
「了解しました。こちらのコンソールに触れ、起動と音声にて指示をお願いします」
人形に促されるまま、起動と一言。
とたん、周囲に光が走り、何もなかった場所にモニターのように映像が映し出され……揺れが走る。
「停止中に、周囲に岩盤が移動してきた模様。除去可能です。ご指示を」
「え? あ、ああ。除去を許可する」
言うが早いか、揺れがすぐに収まっていき……モニターに写る岩山がどんどん小さくなっていく。
この施設?に触れている物が、人形曰く、除去されているということだろうか。
まるでMMWで一斉に攻撃したかのような消え方に、少し怖くなる。
何より気になるのは、この施設、工場が地下に逃げ込んだ時期のことだ。
周囲を岩盤に覆われるほどということは……だ。
「いったい、人類が地下に逃げ込んだのは……いつのことなんだ?」
そのつぶやきに、人形は答えてくれなかった。




