MMW-012
MMW、汎用機械兵器MMWはパーツの付け替えが容易だ。
上半身と下半身を、必要に応じて別のに入れ替えるなんてのは上位では当たり前らしい。
もっとも、今の俺たちのような下位クラスだと違いは武装ぐらいなものなのだが。
「汎用MMW、タルクス……か。はいて捨てるほどいるって意味かな?」
「かもしれませんけど、安くはないです。わかっていると思いますが」
試合当日、試合自体は午後からということで最後の調整中だ。
コックピットを開いたままの言葉に、お嬢様がツッコミを入れてきたってところ。
「そりゃあね、身に染みるほど。相手が死亡した場合、機体の権利は移るっていうのは……やっぱり、怖いよね」
「はい。色んな意味で再起不能になるか、借金まみれで次に賭けるか。幸い、私たちはその場合でもまだなんとかなるかもしれませんけど」
言外に、まだ借金自体はしていないことを知らせてくるソフィアお嬢様。
俺としては、借金しないことを目標の1つにはしたいと思っている。
『同感だな。金の巡りは血の巡り。ここで借金はとにかくつらい』
プレストンの同意に静かにうなずく。
そのまま機体のチェックをもう一回。
「オイル交換済、メタルムコア出力安定、揺らぎも許容内。伝達も異常なし。装甲は確か関節部だけ補強したんだよね?」
「ええ、そうです。前ほどゴテゴテしたものじゃなく、要所要所のみです。後は武装ですね。セイヤ、本当にこれでいいのですか?」
心配そうな顔を見ると、じゃあ追加をとか考えてしまいそうになる。
基本的に火力は、安心の源だ。
その点でいうと、俺の今回の装備は物足りないのかもしれない。
接近戦用のウォーピックを数本、供与されたエネルギー銃は腰、肩にはミサイル、両手には前の戦いで奪ったのと同じタイプの実弾銃、だ。
「撃ちすぎて弾代がかさみました、じゃね。弾は……うん、これでいける」
「よくこんなこと考えますね。確かにアレは中古としてももう価値はないんですけど」
この弾は、今回の乱戦、その秘密兵器だ。
片方の銃の弾と、肩のミサイル、その弾頭にはそれが詰まっている。
もう廃棄に回すしかない、アレがね。
「俺の予想が正しければ、4人全員を倒す必要はないんだよね」
「それは一体……ん、いやでも」
「俺と違ってさ、上位はたぶん、装備もいいし、強い。下位側の二人はまだ微妙だけどね。そうなると、調子に乗ってる俺を含め、一番の強敵は誰って話さ。上の2人にとってはね」
そう、上位2人にとって下位3人はどうとでもなる相手、なのだ。
当たれば打撃だろうけど、これまで生き残ってきたということはその怖さもわかっている。
特に、上位2人の武装は、ね。
「つまり?」
「狙いは上位のどちらか、速攻でしかけて最低でも戦闘能力は低下させる」
『で、そうなったら残った方が悠々と残るわけだ。なにせ……』
乱戦の勝利条件は、最後の2人になるまで、だからだ。
1人、ではなかったのは驚きだけど……。
『たぶん、開催側も上位2人、つまりはショーの人員が減るのは望んじゃいないのさ』
(まったく、面倒な話だよね)
あきれたようなため息が思わず漏れても、仕方ないと思うんだ。
戦い方まで考えないと、生き残れないなんてさ。
「わかりました。現場で命を賭けるのはセイヤですからね。任せます」
「それは違うよ、お嬢様。命がけはお嬢様も一緒」
コックピットを覗き込むようにしているソフィアお嬢様。
その顔にぐいっと自分の顔を近づけて、見つめる。
「俺が負けたら、借金なりしないと次がない。けれど、それは死を後払いにするようなもんでしょ。実際、借金を重ねて這い上がったやつは、ほとんどいない。そう聞いてる」
「それは……」
お嬢様の体臭が感じられるほどの距離から、一気に座り込む。
戦闘中の揺れに耐えるコックピットは、このぐらいの衝撃は吸収した。
少し距離が開き、それでも相手の顔を見て口を開く。
「だから、お嬢様が考えるのは勝った後。機体をどう改良していくか、どう確保するか。俺は勝つ、生き続ける。だから、お嬢様はそんな俺をうまく使って」
「……はい、ありがとうございます」
「お礼なんていいよ。変なの」
灯りを背にして、良く見えない顔が涙ぐんでるようにも見えた。
俺も少し恥ずかしくなって、軽くお腹に何か入れておきたいななんて言ってしまう。
「あ、そうですね。空腹じゃ力が出ません。準備してきます」
「あっ……行っちゃった」
普通はお嬢様みたいな飼い主が、食事の準備なんてしないんだけど……。
いつになったらあの辺は治るのかな?
『いいんじゃないか? 人間関係は人それぞれさ』
「そんなものかなあ?」
そうして、試合までの時間が過ぎていく。




