MMW-123
「若様はいつもこうなのですか?」
「え? こうって? 遠慮せず言ってよ」
「では……休息はあまりとられないのですね」
言われ、時計を見るけどいつもの時間。
いつもの、ソフィアは寝たが俺はまだ起きて自己学習している時間、だ。
太陽がないこの地下世界、時間の過ごし方は自由。
照明が無ければ、ずっと薄暗い世界だ。
建物の中で、照明を使っていれば昔でいうところの、1日というのはあいまい。
各所にある時計が、唯一だろうか?
「そうかな? むしろ、まだ足りないって思うんだよね」
答えながら、手元の電子書籍に目を通す。
ヘルメット型の教育でも見た、人類の記録の1つだ。
MMWとは違う、生身での戦闘。
(結局、ほぼ人間の体を模した形の多いMMWに、絶対役立つ)
知らないはずなのに、その確信がある。
それはきっと、最近プレストンが静かなことが多いのに、関係がある。
「この歳まで生き残った私から見ましても、若様は……生き急ぐとも違う、まるで取り戻そうとしておられるようだ」
「取り戻す、合ってるかも。本当の俺が、昔いたはず。だから、それを体が……遺伝子が覚えているのかもね」
答えながらも、それはあり得ないとわかっている。
プレストンのことを他人には言えないから、それっぽいことを言っただけだ。
ソフィアにも今は言えない、俺の秘密。
『魂は、覚えているかもしれない』
ぽつりと響く声に、微笑みながら爺に顔を向ける。
まだまだ元気そうな、お年寄りと感じる姿の男性。
比較的若い時から、今の役目に抜擢されたとか言っていた。
「さようでございますか……。運命、宿命……様々に言葉はございますが、ご自分の意思を大切にするのが良いかと」
「うん、それはもう。じゃなかったら、ソフィアを助けてないよ。だってさ……」
そこからしばらく、爺の知らないソフィアのことを話して過ごす。
気が付けば、さすがに俺も寝る時間。
もしかして、爺の狙いはこれだったのかな?
俺の夜更かしを責める割に、爺も同じように起きているわけで。
そのことを言ってみると、年寄りは夜遅く、朝早いのですよ、なんてごまかされた。
「じゃ、また朝にね。お休み」
「ええ、ごゆっくり」
爺に向かって、お休みなさいというだけで、なんとなく区切りがつく感じがしたのが不思議だった。
不思議と、その日はすぐに寝ることができ……。
── 何かがコロニー中を駆け巡るのを感じた
『起きろ!』
(言われなくてもっ!)
まさに、文字通り飛び起きた。
すぐに寝間着から普段着へと着替え、ガレージへと飛び出す。
まだみんなは起きていない、けど……。
「うそでしょ、MMWがほぼ起動してる」
パイロットが操作しないと、起動しないはずのMMW。
正確には、力がめぐることが無いはずのメタルムコアが、動いている。
慌てて周囲をよく確認するが、変な感じが満ち溢れている。
というか、この状況、MMWの起動という事実からして……。
「ウニバース粒子が、まるで砂嵐のように吹き荒れている……」
意識してみる物を切り替えると、周囲は無数の光の粒子で光り輝いていた。
普段、どこにでもあるウニバース粒子。
けれども、こんなにあふれることは見たことがない。
「若様、緊急事態ですか」
「爺、みんなを起こして。何か、ある」
いつの間にかそばに来ていた爺(服装もしっかりしている)にお願いをし、外に出る。
ウニバース粒子は見えずとも、何か違和感があるのか、いくつかの家からは人が外に出ていた。
道端の灯りも、粒子の動きに反応するように瞬いている。
(心当たり、無い?)
『あるにはあるが……今はどうしようもないかもしれない』
どういうこと?と頭に疑問を浮かべると、それがじわりと伝わってくる。
比較的近くで、スターレイに攻撃を加えている存在がいる、と。




