MMW-119
「残弾!」
「後2分!」
その日の試合も、ついに最終戦。
もっとも、俺たちが決めた試合数であり、コロニー側はもっと受けてもいいと言っていたけれど。
(腕はともかく、疲労がね)
外での戦いを経験し、俺も、リングも腕を上げているという実感と自負がある。
それでも、そうそう変わらないもの……それは、肉体の強度だ。
体力とも言っていい。
『もともと、この体は他より丈夫らしいけど、心も含めてだと限度はある』
プレストンが言うように、体そのもの、操縦そのものは大丈夫。
けれど、さすがに頭と心が疲れてきた。
その原因は、やはり相手の強さ。
ランクも恐らく5から7と、上のほうだ。
この辺りからは、ランクの更新時にたまっているポイント的なものでランクが決まるらしいのだ。
「ずいぶんしぶとい。こいつは、俺みたいに落ちてきたやつか?」
「かもね。こっちもいいように撃たせてくれないよ」
今日の最終戦は2対2。
相手のMMWは、こちらより2つは上だなと思うもの。
最も重要なのは、こちらを侮っていない、油断していない相手だということだ。
お互いに決定打を放てないまま、じわりじわりと消耗戦。
「知らない感覚だから、知り合いじゃないのが救いかな……リング、2つともフル稼働する!」
「わかった。制御ミスるなよ? 同時に吹かすと、相当やべえぞ」
「それはわかってるよ……3,2,1!」
言って、メタルムコア2つを、同時にフル稼働。
これまでは、その生み出される力と、ブースターの出力が大きすぎて本番では使ってこなかった。
けど、ここは使いどころだ。
景色が、一気に流れる。
同時に、体がぐぐっとシートに押し付けられ……耐える。
「逃げんなっ!」
さすがの実力者。
想定外の速度で接近したはずなのに、ぎりぎり機体をひねり、回避しようとしている。
俺は無理やりブースターの向きを調整し、その動きに合わせ……ぶつかるように切りかかる。
もう刺しにいった感じといえばわかりやすいか。
「うわわわわっ!?」
刺さったことでブレーキになり、機体の速度は急激に低下した結果……衝撃が襲い掛かる。
優秀なMMWらしいフローレンスも、悲鳴を上げているように音を立てた。
その甲斐はあってか、見事に1機は沈黙し、残り1機も射程圏内。
それを見てすぐ、倒れた姿勢のまま残弾を叩き込む俺。
リングの射撃も重なり、相手の四肢が踊るように火花をまとい……倒れた。
「ずいぶんと無茶をする」
「まあね。そうでもしないとさ、空は見れないから」
接触した状態のMMWから、相手の声が届いた。
珍しいことに、女性の声だ。
戦士で女性はあまりおらず、上位ランクとなればさらに、だ。
そんな中での、女性の戦士。
「空、なるほど。あれは冗談ではなかったわけか。機会があればまた挑ませてもらおう」
「ん、いいよ。俺が空に旅立つ前に、ね」
この人にはこの人なりの、希望の穴へ行きたい理由があるのだろう。
でなければ、こんな条件の試合に挑むこともないわけだから。
その理由は知らないけれど、再戦を希望するということは前向きなものだと信じたい。
もっとも、このぐらいの強さがあれば、俺たちと試合をしなくても、そのうち行けそうである。
俺たち以外との試合でも、コロニーはちゃんと見ているのだから。
「楽しみにしている。ああ、私が言うまでもないだろうが、機体は良く点検したほうが良い。見たところ、腕は限界だ」
「だろうね……動くかな……あ、動きそう。じゃあね」
それだけを言って、機体を起こす。
表情の見えないMMW越しだけど、なぜか相手が苦笑したように感じた。
いきなり機体が倒れたりしないよう、ゆっくりと立ち上がらせ……うん、なんとか。
動くには動くし、普通にする分にはいいと思う。
本体とブースター周りは無事だけど、腕は確かに動きが変だ。
「セイヤ、こっちから見ると傾いてるぞ」
「え? ほんと? やっちゃったなあ……勝ったけど損かな、これ」
「心配はいらないと思うぞ。ランクが上がると、あるいは上の相手だと稼ぎも大きくなる。今回はいい意味でも掛け金も上がってるからな」
どこか刹那的なギャンブルだったこれまでの試合。
それが、変わってきているのだという。
コロニーの未来に、それがどんな影響を与えるかはまだわからない。
けど……。
(悪い予感は、不思議とないんだよな)
念のためにと、移動用にトラックに来てもらう間、そんなことを考える。




