MMW-011
『結局のところ、今の俺たちはひとまとめでいくらって扱いだ。外から見た実力もな』
「そりゃそうだけど、そうはっきり言われると……俺は最強になれるんじゃないの?」
電源の入っていないMMWのコックピット内部。
ハッチを開いたまま、俺は操作の練習をしていた。
建前と欲望が入り混じる会食から戻ってすぐ、ソフィアは少し休むと言って寝室へ。
恐らく、あの空気にやられたんだとは思う。
『強くなれたら、な。それまでは運がいいだけ。そう思わせたい』
「そういうことね、了解。お嬢様、大丈夫かな」
疲れただけだと思うけど、顔色は良くなかった。
それでも、誰とどこで戦うかをちゃんと聞きだしたのはえらいと思う。
俺だったら、変に爆発して当日までわからない!なんてなってた自信がある。
『自慢することか? まあいい。本当に気疲れしただけだろう。弱みは見せたくないんだよ』
「ふーん……今更な気もするけど。それより、どうやって勝つ?」
乱戦の人数はなんと、5人。
上位2名に下位2名と俺。
下位といっても、今の俺よりはランクは上だ。
どう考えても、俺は何か場違いに思うんだけど……。
『それだけ連勝が評価されているか、調子に乗らせないためにここで止めるってことか。さて』
物騒なことを言いながら、俺が休んだのをいいことに、体の操作をし始める頭の中の俺。
さっきまでの動きがウソのように、無駄なく操作される姿に、もう何度目かの驚きを感じる。
『よーく見ておけ。今の俺でもこれだけできる。体が出来上がって、実力がつけばもっとだ』
「しっかり飯は食うことにするよ。それより、そろそろ名前決めない?」
『名前? 誰のって俺のか。確かにな……プレストンってことにしておこう。今の俺はお前ではないものな』
プレストン、どんな意味だろう。
不思議だけど、妙にしっくりくる気がする。
「じゃあプレストン。俺は突っ込んでいく方がいいと思う? 射撃してた方がいいと思う?」
『基本は格闘戦主体だな。この前の戦いで利用したように、射撃は弾薬費用がな。さすがにまだ、エネルギー銃も通用するとは思うが、すぐ冷却が必要になるんだ。安物だからな』
それはとても怖い話だ。
頼りにしているものが動かないのは、そのまま敗北に直結する。
それならまだ、目に見えて損傷がわかるウォーピックなりのほうがいい。
(牽制に持っておくのはありかな?)
エネルギー銃の一番のメリットは、手の端子から供給されるエネルギーが弾になるということ。
出力が大きいものだと、すぐに動力源もひどいことになりそうだけど。
『ああ、高いものを使うなら、メタルムコアも良いものに変えていく必要がある。高いから……後々だな』
「やっぱりかー。うーん……よし、こういうのはどうだろう」
頭の中に、作戦を思い浮かべていく。
こういう時、考えが読めるというのは便利だ。
口にしなくても、プレストンには伝わるのだから。
『ほうほう、なるほど。うむ、このランクなら十分通用すると思う。費用もそう高くない。ただ、懸念点がないわけじゃない。それは、観客のウケが悪くなりかねないということだ』
「それがあったかあ。生き死にがかかってるのに、そんなこと気にしないといけないんだもんな」
俺たちの戦いは、ショーだ。
金持ちが観戦し、時にはギャンブルの対象となっているという。
勝敗に関するギャンブルの結果はともかく、盛り上がらない戦いは評判が悪いらしい。
『俺たちはまだ低ランクだから、大体は泥仕合……が、それを裏切るような気持ちのいい勝ち方ができた。高ランクが低ランクを圧倒するような奴はウケが悪い』
「だよねえ……じゃあ、これか」
当初想定していた手段、それはスモークと閃光弾だ。
どちらも視界を邪魔し、その間にと思ったけれど……。
勝負には勝っても、ウケが悪ければ下手をすると賞金も下がる。
せっかくの稼ぐチャンスだ。
『その分、大変だがこれなら……うん。イケるさ』
「よし、じゃあこの想定で特訓を続けよ」
俺と他の連中の大きな違い、それはプレストンがいるかいないか。
どういう原理かはわからないけれど、彼は俺の想像を補強する。
まるでそこに相手がいるかのような視界、感覚。
(リアルすぎて、気持ち悪いぐらいだけど……使えるものは使う)
幻覚でも見ているかのように、自然に動き回る想像の敵機。
それらを相手に、機体を操作し続けるのだった。




