MMW-117
「武装チェック。セイヤ、問題ないか」
「うん。予定通り、5戦分は問題ないよ」
「よーし、こっちも浮遊用のブースターは問題ない。背面武装も、正常だ」
久しぶりの、コランダムコロニーでの試合。
リングとコンビを組んでの、連戦だ。
そう、連戦。
ベルテクスが言っていた、いくらでも、いつでもというのは冗談ではなかった。
(試合を待っている人がこんなにいるとはね)
思い出すのは、ベルテクスとの会談の後のこと。
ソフィアとエルデのもとに帰り、会談の内容を伝え、少しあきれられてすぐ。
リングから、すぐに装備の調達と換装を促された。
理由は、試合の申し込み、その数の多さだ。
今回の騒動の前、試合を挑まれることが減っていた。
そこで、希望する相手との試合は受ける前提でいたのがそのままだったのだ。
1日1試合では到底、追いつかない。
抽選にでもするか?というリングの問いかけに、俺は提案した。
── 一気に片付けよう、と。
「作戦は、相手の無力化で。幸い、殺しは避ける方向にこっちもなってるでしょ」
「まあな。うまいとこ生き残って、もっとうまい目を見たい、単純な話さ」
コロニーに、希望の穴の情報がある程度伝わって、そんなに時間はたっていない。
それなのに、全体の雰囲気は大きく変わったように思う。
どこか退廃的な、刹那的な。
10年先より今やれることを、といえば聞こえはいいけれど。
ベリルコロニーとは別の意味で、あきらめと停滞があった。
そんな雰囲気が、大きく変わったのだ。
「新しい儲け話があるってわかったら、目を輝かせやがって……」
「そのほうが良いよ。多分ね」
観戦している飼い主たちも、その盛り上がりが変わったのを感じる。
いい意味でぎらついた、勢いのある感覚だ。
「今回、リングの援護に回るよ。装備がこんだけそろったなら、もう行けるでしょ?」
「わかるか。ようやくここまでって感じだが……アデルに覚えられてる理由を、証明してやるさ」
俺と同じぐらい、謎の多い戦士、リング。
一時期は俺と同じぐらいまでランクを下げ、がけっぷちだった。
けれど、トップランカーのアデルと親しいぐらい、強い戦士なのだ。
色々な理由があって、さび付いていた彼の腕も、今は……輝きを取り戻しているはず。
『守るべき相手もいる。負けるわけにはいかない気持ちは、俺たち以上かもな』
どこか嬉しそうなプレストンに頷きで答え、俺も試合会場へと向かう通路に入る。
MMW自体はこれまでとほぼ同じ。
武装を、継戦能力に長けたものに変えたぐらい。
なにせ、これから5試合連戦なのだから。
「ちっ、ベルテクスめ。どうせ俺たちなら勝てるだろうって、ろくに情報が出てこねえ」
「いつも通り、正面から叩くだけだよ」
「面白い冗談だ。俺たち、正面からやらないほうが多かったぞ?」
そうだったかな?なんて言いながら、試合会場へ。
徐々に明るく、そしてすでに歓声が聞こえる。
これまでのような、どこか燃え上るような濃い熱気の物から、熱気は同じだけど……。
(希望を、明るい雰囲気を感じる……)
気のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
けれど、俺はその感覚を信じたかった。
試合会場に着き、聞こえるアナウンスに耳を傾ける。
神秘の開拓者、帰ってきた強襲者、そんな話が聞こえた。
「古い呼び方を引っ張り出してきたな。俺が若い時のじゃないか」
「へー、そうなんだ。俺は神秘か……ま、確かに」
停滞を取り除く、新しい神秘。
そのことから考えると、ピッタリかもね。
「神秘の開拓者……うん、いいじゃん」
口にして、言葉がなじんでくるのがわかる。
プレストンも経験がない、新しい未来だと。
『知らない未来というのは、良いことだ。俺が死んだ未来じゃないってことだからな』
(だったら、何度もみないとだね。知らない未来を)
入場の合図が鳴り響き、初戦が始まる。
対戦相手は……ははっ。
「4人、いいね」
「慣らしにしちゃ、少ないぐらいだ」
自信にあふれたリングの声を合図に、動き出した。




