MMW-116
コロニー同士の調整もようやくひと段落。
コランダムコロニーに戻ってきた俺は、ベルテクスとの会談に挑んでいた。
「本当に良かったのかね? 欲が無いというか……」
「今更過ぎない? 俺に同じことをやれってのは無理だよ。このほうが俺にメリットが多いと思う」
相手、ベルテクスへそう告げると、相手もやんわり微笑むだけだ。
俺は戦士でいたいし、空へという目的もある。
……だから、戦わなければ。
そのために、管理者として希望の穴に住み続けることはなく、責任者としてふるまうつもりもない。
そのことを、両方のコロニーに宣言したのだから。
「私としては、コランダムコロニーで試合を続けてくれることはうれしいがね」
そういうベルテクスは、どこか楽しそうだ。
やはり、彼も停滞気味だったことが気になっていたのだろうか。
コロニー全体も、どこか活気があるというか、情報がうまく伝わっているのだろう。
「今回のことで、試合の狙いも変わってくる。飼い主も共に……上位一定数に、あちらへの移住権利を与えることにした」
「それ、移住という名の防衛戦力じゃん。まあいいけど。ソフィアにはもう言ってあるんでしょう?」
「上位の他飼い主にも、な。これはあちらのコロニーでもほぼ同じ動きのようだよ」
ということは、思ったよりも動きが激しくなるのではないだろうか?
長年……実際に何年かはわからないけど、どちらのコロニーも生き残ってきた。
そこに吹いた、新しい風だ。
「他にも細かいルールを新設した。例えばそう、その機械獣のようなものは使用禁止。武器と何が違うという意見もあったのだがね」
「仕方ないんじゃない? 命令したら勝手に動くし。で、次はいつ戦えるの?」
「いくらでも、いつでも」
(……は?)
『それはそうだろう。俺たちが、話題の中心だ』
ベルテクスの言葉に、一瞬呆け、プレストンによって正気に戻される。
なるほど、そういうことか。
「すべて隠すのは無理なのでね、セイヤ、君たちが大きな成果を上げたこと、そして戦闘を望んでいることは宣伝してある。ランクを上げられるだけ上げたいのだとね」
「それで戦いが自由? 俺たちはいいけど、あまり戦いたくないんじゃなかったの?」
「その点に関しては、お互いに殺し合いはなしとなるだろうがね。事故があるのはこれまでも一緒だ」
それはそう、なのかな?
当たり所が悪ければ、手加減してても死ぬのがコランダムコロニーの試合だ。
ベリルコロニーだと、よほど起きないらしいけど。
実際にどこまで試合ができるかはわからないけど、朗報といえば朗報かな。
あとは、リングともよく相談しないといけない。
彼らは、希望の穴から報酬として持ち帰った赤ちゃん用の薬なんかの生産ユニットを設置しているところだと思う。
希望の穴には人間がいなかったけど、物資や施設はそろっていた。
その中に、育児、赤ちゃんを育てるための機材がいくつかあったのだ。
希望の穴には、人間を再生する元、遺伝子関連が無かったので、使う機会がなかったらしい。
リングもエルデも、そのうちコランダムコロニーに提供して、子育てを楽にしたいのだとか。
その点では、リングももっと名を上げたいと言っていた。
「戦力が減らないように、上手く戦うよ。リングと相談するとして……どこまで行ってほしい?」
部屋には護衛もいない。
そんな1対1の会話。
コロニーのほぼトップの彼が、そんな状況で会談してくれる意味を、俺は正確に知りたいところ。
何を求めて、何を期待されているのか。
「空への道筋を。私もね、地上の空を見てみたいのだよ」
小さく、短く。
ベルテクスは人間らしく欲望を口にした。




